2011-01-01から1年間の記事一覧

今日のうた8(12月)

[今日のうた8] 2011年12月今年は忙しくて、観劇記が減ってしまいましたが、その代りに、電車の中で歌集や句集を読む楽しみが増えました。皆さま、よいお年をお迎えください。 (写真は佐藤佐太郎、昭和を代表する歌人、今回の炭火の歌もそうだが、佐太郎の…

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

[読書] 川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』 講談社 ’11.10.12刊 1976年生まれの話題の新進作家の近作を読んだ。私はこの一冊しか知らないのだが、若い女性のとても切ない純愛が、限りなく美しく描かれているのに驚いた。ほとんどありそうもないと思われる…

ドヴォルザーク『ルサルカ』

[オペラ] ドヴォルザーク『ルサルカ』 新国立劇場(写真右は、月に向かって歌うルサルカに、月の中から魔女イェジババが現れたところ。下は、青服のルサルカが、人間界で孤立し、婚礼の席を孤独に駆け回る。) ポール・カラン演出で、2009年にノルウェー国立オ…

今日のうた7

[今日のうた7](写真は吉野秀雄1902〜67、群馬県高崎市の呉服商、吉野藤の創業者の孫。病身であったが、情の深い歌を詠んだ。今回挙げた妻の最期を詠んだ歌は代表作。) ・ まつすぐな道でさみしい (種田山頭火1933、五・七・五に囚われない自由律俳句を作っ…

グルーバー演出『ドン・ジョバンニ』

[オペラ] モーツァルト『ドン・ジョバンニ』11月23日、日生劇場(写真下は、舞台スケッチ、2番目は、左よりエルヴィラ、ツェルリーナ、マゼット、3番目は、アンナとオッターヴィオを囲む女たちの「霊」) 二期会とライン・ドイツ・オペラの共同制作。ドイツの…

今日のうた6

[今日のうた6](写真は橋本多佳子1899〜1963、山口誓子門下の俳人、師と同様、感覚的にシャープな句を詠む、今回挙げた「林檎」は何とも美しい句、多佳子その人も大変美しい人であったと言われる) ・ 幾万といふ蔦の葉がひとときに風にし動く楽しともなく (…

今日のうた5

[今月の歌5] (挿絵は、伊勢。三十六歌仙の一人で美女として名高い。勅撰集に採られた数多の歌には、今回挙げたような、初々しい官能の歌もある) ・ 彼一語我一語秋深みかも (虚子1950、「かも」は断定でない詠嘆、虚子の句は簡潔にして余韻が深い) 10.6 ・ …

ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』

[オペラ] イル・トロヴァトーレ 10月17日新国立劇場 ヴェルディ中期の傑作オペラ『イル・トロヴァトーレ(=吟遊詩人)』を観ました。ヴェルディといえば、英雄、王、軍人などが勇ましく活躍する「マッチョのオペラ」が多く、軟派へたれ系の私は、どちらかとい…

今日のうた4

[今日のうた4] (写真は上田三四二(1923〜89)、佐藤佐太郎と上田三四二は私の最も好きな歌人なので、これからたくさん挙げることになると思う。今回もそうだが、三四二には「光」を詠んだ秀歌が多い。) ・ 秋の野や花となる草ならぬ艸(くさ) (加賀千代女、千…

ヌスバウム『感情と法』(4)[男子の病理としての羞恥]

[読書] ヌスバウム『感情と法』(慶応大学出版会) (4) (承前) 今日は「細やかなやりとり」ができない男の子という問題。 「羞恥」の感情は、ナルシシズムの乗り越えに関る問題を抱えている。ヌスバウムによれば、「羞恥」は、自分の貪欲さを反省するという「…

ヌスバウム『感情と法』(3)[羞恥について]

[読書] ヌスバウム『感情と法』(慶応大学出版会) (3) (承前) 今日は「羞恥」についてです。 嫌悪が、人間の動物性にストレートに関る感情であったのに対して、「羞恥」は、動物的なレベルとは異なる人間固有の「自我のあり方」に基づく感情である。羞恥とは…

ヌスバウム『感情と法』(2)[嫌悪について]

[読書] ヌスバウム『感情と法』(慶応大学出版会) (2) (承前) 今日は「嫌悪」について。 >嫌悪感は、ほとんどの人間の生活の中に強く働いている感情である。嫌悪感によって、私たちの親密さの度合いは決まってくる。身だしなみに気を配るというような日常の…

ヌスバウム『感情と法』(1)[感情は認知的価値を持つ]

[読書] ヌスバウム『感情と法』(慶応大学出版会) (1)(写真は原書表紙。Hiding from Humanity というタイトルだが、Humanityという語の意味が通常とは違う。「おぞましさ」や「弱さ」を持つ「人間であること」の意味で使われている。邦訳ではこの絵は使われて…

今日のうた3

[今日のうた3] (写真は、小野茂樹。新感覚の相聞歌を詠んだ昭和歌人。今回挙げた「あの夏の数かぎりなき・・・」は、私のもっとも好きな歌の一つです。) ・ かすがのに おしてるつきの ほがらかに あきのゆふべと なりにけるかも (会津八一『鹿鳴集』1940、…

「さようなら原発」集会の報告

[政治] 「さようなら原発集会+デモ」報告 (写真は、デモ行進する私(右)と友人の田島正樹氏、場所は神宮球場の横を通って国道246に出る少し手前です。下は私たちのグループ「ゆるふん」の旗、威風堂々、明治公園に入場です。) 明治公園で開かれた「さような…

今日のうた2

[今日のうた2] (写真は、2010年8月に亡くなった河野(かわの)裕子の追悼文集。彼女は現代歌人の中でも、もっとも情感溢れる相聞歌を歌った人。「たとへば君・・・」は、やはり彼女の代表作。) ・ 蟻の国の事知らず掃く箒(はうき)哉(かな) (高浜虚子、「蟻」…

今日のうた1

[今日のうた1]30年以上も昔になるが、朝日新聞に毎日、大岡信氏の「折々のうた」が連載された。私はこのコラムが特に好きで、長い間ずっと愛読してきた。そして、いつかは自分でも、好きな短歌や俳句、短詩(たとえばディキンソンのような)のアンソロジーを…

映画『コクリコ坂から』

[映画] 宮崎駿/吾郎「コクリコ坂から」 長野グランドシネマズ (写真右は、高校の部活の建物「カルチェラタン」、学生運動を示唆する名前になっている。下は、コクリコ坂を降りるヒロイン「海」。1963年の横浜にはこういう住宅地があったのだろう。) 山篭り…

映画『小さな哲学者たち』

[映画] 「小さな哲学者たち」 新宿・武蔵野館 フランスの幼稚園で「哲学」の授業を二年間行ったドキュメンタリー映画。考えさせられることの多い、優れたものだった。教師が問いを出しながら、子供たちに考えさせ、議論させる。最初の一年間は、おぼつかない…

三谷幸喜『ベッジ・パードン』

[演劇] 三谷幸喜作『ベッジ・パードン』 世田谷パブリックシアター (写真は、前列左が、女中のベッジ(深津絵里)、右が漱石(野村萬斎)) ロンドンに留学した漱石は、英語もうまく通じずにノイローゼになりかけていた。下宿の女中はコックニー訛りが強く、彼女…

新国『コジ・ファン・トゥッテ』

[オペラ] モーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』、新国立劇場(写真右は、キャンプ場の事務所、下は、キャンプ場内の池とキャンピングカー。池の縁に腰掛けたデスピーナ(中央)は両側の姉妹に「不倫しちゃおうよ」と煽りまくる。キャンピングカーは、たぶん…

プルースト『失われた時を求めて』

[読書+DVD] プルースト『失われた時を求めて』 鈴木道彦訳、集英社文庫(写真右は、スワンが繰り返しオデットと重ね合わせるティポラ(モーセの妻になる女性)。ボッチチェリが描いた『モーセの生涯』の一部で、システィナ礼拝堂の壁画。写真下は、映画版『ス…

ベケット『ゴドーを待ちながら』

[演劇] ベケット『ゴドーを待ちながら』 4月22日 新国立劇場・小劇場 (写真右は、ラッキー(石井けん一)とポッゾ(山野史人)、下は、ゴゴ(石倉三郎)とジジ(橋爪功)) 弱冠34歳の森新太郎が演出。『ゴドー』は、戯曲を読んでもイメージが湧かず、あまり面白くな…

野崎綾子『正義・家族・法の構造転換』(2)

[読書] 野崎綾子『正義・家族・法の構造転換――リベラル・フェミニズムの再定位』(2003,勁草書房) (写真は、著者が大学院修士のときに書いた処女論文「日本型<司法積極主義>と現状中立性」が最初に掲載された本。彼女が弁護士時代に担当した訴訟に関わるも…

野崎綾子『正義・家族・法の構造転換』(1)

[読書] 野崎綾子『正義・家族・法の構造転換――リベラル・フェミニズムの再定位』(2003. 勁草書房) 著者は、1971年生まれ、弁護士の仕事に携わった後、東京大学法学部大学院に戻り、助手在職中の2003年に逝去。本書は著者の修士論文を中心とする論集。ジェン…

TVに出ます

[身辺] TV出演のお知らせ (3月5日(土)23:45分〜 NHK教育TV) 今日は出演番組の宣伝です。あまりテレビを見ない私ですが、どういうわけか、テレビに出ることになりました。NHK教育TVで今年から始まった「Q〜わたしの思考探究〜」というシリーズ番組です。 …

コンヴィチュニー演出『サロメ』

[オペラ] R.シュトラウス『サロメ』 東京文化会館 (写真右は、舞台全景。地下の閉鎖された空間で、外に出られない。「最後の晩餐」を思わせる食卓光景。下は、踊るサロメとヘロデ王。袋を被って左端に座っているのが預言者ヨカナーン[=ヨハネ]。写真はすべ…

旧約聖書『民数記』

[読書] 旧約聖書『民数記』(岩波版、旧約聖書シリーズ第3巻) (写真は、イスラエルの民がエジプトを出てから、死海の東を迂回してヨルダン河東岸に至るまでの40年の流浪の旅の推定経路) モーセ五書の第四番目にあたる『民数記』は、ヘブライ語正典では、「…

シェイクスピア『十二夜』

[演劇] シェイクスピア『十二夜』 シアターコクーン、1月22日 (写真右は、松たか子のヴァイオラ。男と女は一つの体から分れたというプラトンの神話の絵の前で、双子の兄セバスチャンと一人二役を演じる。この一人二役が、本公演の基調をなしている。写真下は…

ヤスミナ・レザ『大人は、かく戦えり』

[演劇] レザ『大人は、かく戦えり』 新国立劇場, 小H 1月15日 (写真右は、ヤスミナ・レザ。現代フランスの女性劇作家。原作は、2006年初演後、欧米で評判になり、トニー賞やオリヴィエ章を受賞した。日本では2008年に、原題「殺戮の神」のまま、劇団黒テン…