[演劇] 劇団道学先生 『東京の恋~さほどロマンチックでもなく~』

[演劇] 劇団道学先生 『東京の恋~さほどロマンチックでもなく~』 新宿シアタートップス 4月10日

初めて知る劇団だが、素晴らしい舞台だった。岸田國士「頼母しき求縁」1930、別役実「その人ではありません」1981の二作に、現代の深井邦彦「うそぶく」を組み合わせて、三作を一作にした。副題は「さほどロマンチックでもなく」だが、どうしてどうして、恋愛は途方もなくロマンチック、という主題に全体がどっと流れ込む。岸田の「頼母しき求縁」は見合いの場だが、1930年は実際にこんな感じだったのだろう。岸田の戯曲が「週刊朝日」に発表されたというのも驚き。舞台では、年齢もかなりいった娘は厳しい条件をたくさん付けて見合いに臨むのだが、来た相手はその条件すべてに外れていた。ところが、二人が話しているうちに、二人は互いに大いに気に入ってしまい、同席した親や従兄弟が止めるのも構わず、そこで恋が始まるのだ! ここまで極端ではないにせよ、見合いから恋愛が立ちあがることは結構あったのかもしれない。見合いには同席者があり、当事者との間に生じる認識と感情のズレがとても滑稽で、面白い。見合いは、演劇の題材にぴったりなのだ。作品も名作で、役者も上手い↓.。

別役実「その人ではありません」は、かなり難解な不条理劇。中高年の男女が、再婚の相手を探す見合い、公園のベンチで会うのだが、女は、「私は本人ではありません、親友の代理です」と言う。男は身上書の写真を見ながら、「いや、あなたは本人です」と言う。最初は、「結婚詐欺」の物語なのかと思ったのだが、そうでもないようで、そこはよく分らない。とても滑稽なすれ違いの会話になるのだが、そのうち互いに少し気に入ったところもありそうにも見え、そうでもなさそうにも見える。結局、見合いは成立しない。でもシェイクスピアじゃじゃ馬ならし』ではないが、男女の間というのは、ケンカしていながら、本人は気付かずに互いに気に入っていることもある。役者も実に上手い↓。

深井邦彦は、この二作を結合して、第三の「恋愛詐欺」の物語に昇華した。そこが凄い。亡くなった妻が忘れられず、夫は霊界の妻とスマホでメールをやり取りする。令和の現代だからこその光景。しかし、メールの相手は、詐欺師の若い女で、男に「アップルカードを買わせて、写真で送らせ」金を盗もうとする。男は、相手は詐欺師だと分っていながら、スマホのメール交換がやめられない。その純愛に感動して、詐欺師の女は後悔して反省し、自分は詐欺師であると名のり出る。それでも男は、スマホのメール交換を心から喜び、妻が本当は生きているのだと幻想する。途方もなくロマンチックな物語!(写真↓は、男を演じる劇団道学先生座長の青山勝、そして詐欺師の女もとてもいい)