2010-01-01から1年間の記事一覧

旧約聖書『レビ記』

[読書] 旧約聖書『レビ記』(岩波版、旧約聖書第2巻)(写真は、パピルスに記されたギリシア語『レビ記』) 院生たちと、旧約聖書勉強会を再開。モーセ五書の第三書『レビ記』。ほぼ全篇が文化人類学的テクスト。人間の「再生産」は、まずは食と生殖に関るか…

上野千鶴子『女ぎらい』

[読書] 上野千鶴子『女ぎらい――ニッポンのミソジニー』(紀伊国屋書店刊、10月16日) 久しぶりの、著者の本格的なジェンダー論。興味深い内容なので、一部を紹介してみたい。まずは、「女ぎらい=ミソジニー」というタイトルの意味である。通常、「ミソジニー…

新国『アラベッラ』

[オペラ] R.シュトラウス『アラベッラ』(新国立劇場) (演出・美術・照明をフィリップ・アルローが担当する舞台は、森英恵担当の衣装も含めて、とても美しい。色であると同時に光でもある青が、白と織り成すコントラスト。その青にもさまざまなバリエーション…

東京新聞の書評

[読書] 渡辺由文『時間と出来事』(中央公論新社、8月25日刊)9月26日(日)の東京新聞(中日新聞)の読書欄に、以下の書評を書きました。私、中島義道氏、大森荘蔵先生など、一刀両断にバッサリ批判されていますが、なかなか面白い本でした。ーーーーーーーー…

杉浦由美子『バブル女は「死ねばいい」』

[読書] 杉浦由美子『バブル女は「死ねばいい」――婚活、アラフォー(笑)』(光文社新書、’10年8月20日刊) ミーハーな本だけれど、私の知らないことも多かったので、コメントしてみたい。著者によれば「ミーハー」はすでに死語に近く、現在では「スイーツ(笑)」…

シスタースマイル−ドミニクの歌

[映画] シスタースマイル−ドミニクの歌 (2009年、ベルギー映画 シネスイッチ銀座)(写真右は、映画のDVD。修道女だったジャニーヌ・デッケルスを演じるのは、ベルギーの女優セシル・ド・フランス。写真下は、実在のジャニーヌ・デッケルス。) (写真下は、映画…

ヤハウェという神(2)

[読書] 旧約聖書『出エジプト記』(岩波版、旧約聖書第2分冊)(写真は、パピルスに描かれた古代エジプトの割礼。BC2350-2000頃の墓壁のレリーフにも、この絵とほぼ同じものがある。岩波版『レビ記』p285) 『出エジプト記』は謎が多い。特に主人公モーセをめ…

ヤハウェという神(1)

[読書] 旧約聖書『出エジプト記』(岩波版、旧約聖書第2分冊) (写真は、エジプトのヒエログリフに記された「ヤハウェYahweh」の名。) 『出エジプト記』は、神ヤハウェの異様さが際立っている。『創世記』では、ノアの洪水や、アブラハムのイサク奉献など、ヤ…

アブラハムとイサク

[読書] 旧約聖書『創世記』第22章(写真は、レンブラントによる「アブラハムとイサク」) 若い人たちと旧約聖書の読書会を始めた。まだ『創世記』を読んだだけだが、第22章、アブラハムによるイサク奉献の物語は、いろいろなことを考えさせる。まず、アブラハ…

シュトラウス『影のない女』

[オペラ] R.シュトラウス『影のない女』 新国立劇場 (写真右は、終幕、人間世界へ覚醒した二組の夫婦の幸福な大団円。下は、染物屋バラクとその妻。そして、乳母と決別する皇后(右)) シュトラウスのオペラとしてはもっとも長時間で、大編成のオケがよく鳴…

サファイア原作『プレシャス』

[読書] サファイア『プレシャス』(東江一紀訳、河出文庫) (写真右は、映画『プレシャス』発表会。右から、原作者のサファイア、監督のダニエルズ。写真下は作者、原作の『Push』、そして邦訳) 映画『プレシャス』を観て、原作を読みたくなった。アマゾンです…

映画『プレシャス』

[映画] 『プレシャス』(109分、ムービックスさいたま) (写真右は、主人公の少女プレシャス(ガボレイ・シティベ)と彼女に読み書きを教えるレイン先生(ポーラ・パットン)。下は、プレシャスと母親のメアリー(モニーク)。ソーシャル・ワーカー役のマライア・キ…

清水真木『これが「教養」だ』

[読書] 清水真木『これが「教養」だ』(新潮新書、’10年4月20日刊) 面白い本だったので寸評。著者は、ニーチェ研究者にしてヨーロッパ精神史に詳しい博識な学者。現代の日本では「教養」が痩せ細り、社会も大学も実用知に傾斜する現状をただ嘆くのではなく、…

風間孝・河口和也『同性愛と異性愛』(2)

[読書] 風間孝・河口和也『同性愛と異性愛』(岩波新書) その2 第5章「性的マイノリティとは何か」では、同性愛と性同一性障害の関係をめぐる難しい問題が論じられている。「心の性」(=性自認)と「体の性」が一致しない性同一性障害に対しては、手術によっ…

風間孝・河口和也『同性愛と異性愛』(1)

[読書] 風間孝・河口和也『同性愛と異性愛』(岩波新書、3月19日刊) (写真は、古代ギリシアの女性詩人サッフォー。「レズビアン」という名称はサッフォーが住んだレスボス島に由来する。医学用語として20世紀初頭からあるが、同性愛者解放運動の中で使われる…

新国『神々の黄昏』

[オペラ] ワーグナー『神々の黄昏』 新国立劇場・オペラH (写真右は、岩屋の小屋を襲われて驚くブリュンヒルデ。手前は、グンターと隠れ頭巾を被ってうつむくジークフリート。グンターに化けたジークフリートという原作をこのように演出。他の写真は舞台より…

別役実『象』

[演劇] 別役実『象』(深津篤史演出) 新国立劇場・小H (ポスターと舞台より。原爆症の男(大杉漣)と妻(神野三鈴)。おにぎりの食べ方にこだわるこのシーンは傑作。舞台全体に敷き詰められた何千枚もの古着は、原爆の死者たちの隠喩か、それとも生き残った者たち…

野村萬斎『マクベス』

[演劇] 野村萬斎・構成・演出・主演『マクベス』 世田谷パブリックシアター (右はポスター、下はマクベスの萬斎とマクベス夫人の秋山菜津子) 野村萬斎が構成・演出・主演するシェイクスピアは、これまで『まちがいの狂言』(原作『まちがいの喜劇』)、『国盗…

高殿円『オーダーメイドダーリン』

[読書] 高殿円『オーダーメイドダーリン 幸せの王子様の育て方』(飛鳥新社、2006年7月) 数日前に私の研究室に寄った大学院生が、「先生、これ面白いですよ」と言って、この本を置いていった。独身女性のためのハウツー本で、どうしたら彼氏ができるか、彼氏…

パーセル『アーサー王』

[オペラ] パーセル『アーサー王』 神奈川県立音楽堂(写真右はポスター、下は今回の上演の元となったフランス版、モンペリエ国立劇場での舞台(2009年3月)。右側のスカート姿の奇妙な人物が指揮者のニケ。You Tubeの動画も最後に貼っておきます。) 昨年、『ダ…

新国『ジークフリート』

[オペラ] ワーグナー『ジークフリート』 新国立劇場(写真右は、鍛冶屋ミーメとジークフリート。下は、人食い竜、小鳥に語りかけるジークフリート、そして、ぬいぐるみを脱いで裸になる小鳥) バイロイトに行かなくても、東京でこれほど見事な『指環』が観られ…

『偽りの女庭師』

[オペラ] モーツァルト『偽りの女庭師』 東京室内歌劇場公演 紀尾井ホール(写真右はポスター。下は、2003年フロリダ・グランド・オペラ、2006年ザルツブルク音楽祭、2006年チューリッヒ歌劇場の公演。現代的演出が流行っている。) モーツァルト18歳の作で、…

藤原歌劇団『カルメル会修道女の対話』

[オペラ] プーランク『カルメル会修道女の対話』 藤原歌劇団公演・東京文化会館 (右は今回のポスター、下は2009年11月、フランスのトゥルーズで上演された舞台) 友人のT氏とKさんとご一緒した。実演を観るのは昨年に続いて二度目だが、心洗われる奇跡のよう…

水林章『モーツァルト《フィガロの結婚》読解』

[読書] 水林章『モーツァルト《フィガロの結婚》読解』(みすず書房、07年6月) 新刊ではないが、とても充実した本だったので、寸評を。「フィガロの結婚」について書かれたものは多い。キルケゴール『あれか・これか』のような古典は別としても、1913年に刊行…