MET、グノー『ロメオとジュリエット』

charis2017-03-01

[オペラ] グノー『ロメオとジュリエット』 2月28日 MOVIXさいたま


(写真右は、ティボルトとマキューシオの決闘シーン、写真下は舞台全景)

メトロポリタン歌劇場、2017年1月21日公演の映画版。バートレット・シャー演出。非常に美しい舞台で、オペラとしては名作だと思うが、シェイクスピア原作の演劇版『ロミオとジュリエット』とはかなり印象が違う。筋はほとんど同じだが、完全にメロドラマになっている。全篇、ひたすら朗々と愛を歌うのだ。人目を忍ぶ緊迫感や、ひりひりするような痛みがまったく感じられない。たとえば第一幕、舞踏会の一目ぼれのシーン、演劇では、「And palm to palm is holy palmer’s kiss 巡礼さんが手と手と合わせるのが神聖なキスよ」とジュリエットがうまく誘って、ロミオが瞬時にキスを奪い、そして彼女も瞬時にキスを返す。人目を忍んでキスを奪うのだから、一瞬でなければならないのに、オペラでは、「あ〜あ、私に罪が移っちゃった」とジュリエットが長々と嬉しそうに歌って、踊って、じらしながら、ゆっくりとキスを返す。パリスとの結婚式も、原作では前夜にジュリエットは薬を飲んで仮死状態になるのだが、こちらは、薬がなかなか効かず、翌日の結婚式の途中でパリスの目の前でジュリエットが倒れる。一番おかしいのは、最後の墓場のシーン。本来なら、目覚めないジュリエットに絶望したロメオは薬を飲んで、瞬時に死ぬ。ところが、こちらは、ロミオはなかなか死なないうちにジュリエットが目を覚まして二人の愛の交歓シーンが続く。ロミオは「両家を和解させられなかったのは残念だ」などと余計な反省をするし、ジュリエットは「これで私たち、一緒に死ねるのね」と二人は抱き合って死んで、終幕。(写真下は、最後の墓場のシーン、二人はなかなか死なない。ジュリエットのD.ダムラウとロミオのV.グリゴーロ)

考えてみれば、オペラという様式では、朗々と歌わざるをえないので、必然的にメロドラマになってしまうのかもしれない。しかしシェイクスピア原作の、二人が死に向かって時間を駆け抜けるスピード感や、人目を忍ぶ純粋でひたむきな愛の緊迫感がないと、やはり『ロミジュリ』ではないような気がする。とはいえ、いろいろ美しい作りもあった。ロミオの小姓バルサザーを美少年にして、メゾソプラノ若い女性が歌うので、これはまさに『フィガロ』のケルビーノ。かなり活躍して、歌も歌う。配役は、ロミオだけでなく、ティボルトもマキューシオもすべてマッチョに揃えたので、男装女性が混じるのはとても良い。そして、冒頭のプロローグなど、合唱シーンが多いのも、全体を音楽的に盛り上げて美しいものにしている。(写真下は、バルコニーのシーン)

下記に80秒ほどの動画があります。決闘シーンなどなかなかの迫力。
http://www.metopera.org/season/2016-17-season/romeo-et-juliette-gounod-tickets/