シラー『たくらみと恋』

charis2017-02-19

[演劇] シラー『たくらみと恋』 世田谷パブリックシアター 2017.2.19


(写真右はポスター、下はルイーゼを演じるE.ボヤルスカヤ、非常に美しい人、そして終幕、ルイーゼとフェルディナンドを演じるD.コズロフスキー、彼もシャネルのCMモデルを務める美形)


ロシアの劇団、ペテルブルグ・マールイ・ドラマ劇場公演、レフ・ドージン演出。シラーの劇の上演も希だが、ロシア劇団の公演も少ないからだろうか、観客にはロシア人が大勢。私は最前列のよい席だったので、俳優の表情や演技が直近で楽しめた。シンプルでスタイリッシュな舞台が、とにかく美しい。軽いメロディーとともに机の上に立ってちょっと踊るパフォーマンスや、美形の青年たちのアスリートのような動きなど、身体運動が快い。写真下は、冒頭、フェルディナンドが机の上を滑走してルイーゼに近づき、キスを奪うのはスポーツのように爽快。

原作はシラー25歳の作品で、上演回数の多い名作である。ドイツ版ロミオとジュリエットとも言われているそうだが、ハムレットのようなところもある。宮廷の陰謀渦巻く中で、若い男女の純愛が潰されて、あえなく死んでしまう物語。町娘ルイーゼと貴族の息子フェルディナンドの「身分違いの恋」に、ルイーゼが負い目をもっていることが、最後に、自分の父母とフェルディナンドのどちらへの愛を取るのかという選択のときに、フェルディナンドへの不信になり、他方ではフェルディナンドも思い込みが激しい性格ゆえに、互いの誤解が二人の死につながる。原作そのものの展開がややかったるいこともあり、この上演では、無駄な部分を削り、相当スリム化している。ルイーゼが偽の手紙を書くのを強制される相手の侍従長フォン・カンプをなくしたり、終幕の死んだ二人をとりまくドタバタをカットするなど、このスリム化は成功している。しかし一つ大きな無理があった。それは大公の愛人であるミルフォード夫人が、フェルディナンドとルイーゼの愛に負けて、自分の主人である大公に反逆し、公国から逃走するシーンをカットしたことである。この逃走ゆえに、偽手紙の「たくらみ」は失敗し、フェルディナンドの父である宰相は彼にルイーゼとの結婚を許さざるをえない。ところが、この逃走をカットしたために、なぜ偽手紙の「たくらみ」が失敗したのが観客に分からないものになった。あと、これはシラーの原作の問題だが、ロミオとジュリエットのようには二人の純愛が貫徹しておらず、ルイーゼにもフェルディナンドにも、どこか釈然としない思いが残るような気がした。写真下は、ミルフォード夫人に言い寄られるフェルディナンド。