[オペラ] R.シュトラウス ≪エレクトラ≫ サントリーH

[オペラ] R.シュトラウスエレクトラ≫ サントリーホール 5月14日

(写真[12日]↓は、正面緑のドレスがエレクトラ[クリスティーン・ガーキー]、左へピンクがクリソテミス[シネイド・キャンベル=ウォレス]、その左クリテムネストラ[ハンナ・シュバルツ]、左端がオレスト[ジェームズ・アトキンソン]、右端は演出のトマス・アレン?)

ジョナサン・ノット指揮、東京交響楽団。それにしても凄いものを観た。終幕時、私の周囲では皆泣いており、そして20分間のスタンディング・オベイション、私には初めての経験。2016年にMetライブでニーナ・ステンメがエレクトラを歌ったが、今回の方が圧倒的だった。思うに、≪エレクトラ≫は音楽が自立しており、音楽だけでオペラが成り立つので、演技のほとんどない演奏会形式で十分なのだ。≪トリスタンとイゾルデ≫≪ペレアスとメリザンド≫等がそうであるように。(14 日↓私の席は、この撮影位置の少し左の並び)

歌というよりも、ほとんどが叫び。1時間40分の一幕作品だが、エレクトラはほぼ歌いっぱなしで、とてもこれ以上の時間はあり得ない。それにしても、歌詞がホフマンスタールなので、とにかく言葉が素晴らしい。ソフォクレス原作の名句は残したのか。冒頭、「アガメムノーーン! お父さまぁぁぁ! 私を独りにしないでぇぇぇ! お会いしたいわぁぁぁ!」という叫びが突出している。オケも鳴りっぱなし。クリテムネストラとエレクトラとの対決は、二つの女性性が爆発して衝突する感じ。それに対して真に拮抗するのは、アガメムノンエレクトラの父娘愛というより、オレストとエレクトラ姉弟愛だろう。アイスキュロス『オレステイア』では、追われたオレストとエレクトラが、死を前に男と女の関係になってしまい、その崇高さに私たちは泣いた。この≪エレクトラ≫でもやはり、オレスト/エレクトラの愛は、全体の核だと思う。二人の再会の部分も素晴らしい。最初、おずおずと手を伸ばし合うが、なかなか触れ合えず、少し触れあったあと、ひしと抱き合う。しかし、じきエレクトラは身をもぎ離し、叫ぶ、「私を抱きしめないで! 美しかった王女の私、でも獣のように醜くなってしまった私、ただ見詰めるだけにして!」。私は、『十二夜』終幕の、兄と再会したヴァイオラが「私を抱くのは待って! 今、男の服を着ているから!」を思い出した。

 

ほとんど最後、エレクトラの絶叫、「音楽が聴こえないですって! この私から流れ出る音楽が?」。何という科白! およそオペラに可能な究極の言葉! そして幕切れ近く、エレクトラは一人で激しく踊る。すごくビートの効いた身振りで、足で地面を叩きつけながら踊る。私は、能『道成寺』の舞いを思い出した。ツァラトゥストラではないが、人間、最後は踊るのだ。踊ることによって魂は浄化される。音楽についていえば、前衛的だが、たまにシュトラウスらしい、このうえなく美しく甘美な旋律が混じる。クリテムネストラを歌ったハンナ・シュヴァルツは、やや声量が小さく、エレクトラに圧倒されっぱなしだったが、彼女はもうすぐ80歳なのだ! 演奏会形式にもかかわらず、演出のトマス・アレンの配慮を感じる。エレクトラは両手を大きく開いて、天を仰いで歌う!静かな踊りのように両手を伸ばす。こんな歴史的名演に立ち会えて、私は本当に幸せ。72歳の今日まで生きていてよかった。皆さん、ありがとう。