[演劇] 寺山修司『不思議な国のエロス』

[演劇] 寺山修司『不思議な国のエロス』 新国 2月19日

(写真↓は舞台)

寺山修司が1965年に、浅利慶太の要請で日生劇場のために、アリストパネス『女の平和』をミュージカル化したものらしい(日生劇場では上演されず、2014年にSpace早稲田で初演? 正確には知らないが)。今回の演出は文学座の稲葉賀恵。寺山らしい想像力の跳躍が見られ、面白いところはあるのだが、全体を歌と踊りによって<はしゃぎ過ぎ>にしたので、原作の一番面白い部分が霞んでしまった。原作では、男はもちろん女も全員セックス大好きなので、そのセックスを「断つ」ことの苦しみが一番の主題。原作でも女たちは「セックス・ストライキ」に大いに盛り上がって、はしゃぐのだが、そのはしゃぎには深い屈折があり「から騒ぎ」のような趣がある。この舞台ではそれが「騒ぎ」になっており、「から騒ぎ」がうまく表現できていないのでは? ただ、細部の工夫は面白い。ストライキを主導するのはアテナイの主婦リュシストラテではなく、ヘレネ(写真↓、松岡依都美)。でも、なぜヘレネが? その必然性を少し示してほしかった。寺山はヘレネが戦争の原因である「トロイ戦争」と重ねているのだろうが、舞台からは分からない。エウリピデスヘレネ』のように、ヘレネは戦争の原因だから、他の女たちから激しく非難されてもいいのだが、その場面はこの舞台であったのだろうか?スパルタの主婦ランプトは原作と同じ。

アイアスとクロエが新婚を迎える直前という設定が面白かった。ストライキ破りの新婚の初夜、「もしかして、はじめて?」と不安そうに尋ね合うところがいい。童貞と処女の初めてのセックスはそう楽しめないのは、古代ギリシアもそうなのか、それとも寺山の想像なのか(笑)。それはともかく、新婚の初夜、クロエが最後の最後になって、やはりセックスはできないとアイアスから去るのはいい。ただ、アイアスがそのあと死ぬのはなぜだろう、よく分からない。私が一番驚いたのは、ナルシスを語り手にして、しかもせむしの老人に造形、それを朝海ひかるが演じる↓。ナルシスを恋うエコーを、制服を着た質問好き女子高校生にしたのもいい。「エコーのように」質問する少女? ところで、このナルシスの美しさ!他の女性たちの<エロス>は美しいと感じなかったが、このナルシスは驚嘆するほど美しい。こういう倒錯的な美が、寺山の持ち味なのか。

3分の動画

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