[折々の言葉] 5,6月

[折々の言葉] 5,6月

 

ぼくはデーミアンの顔を見る。少年の顔じゃない。一人前の男の顔。しかも男の顔にとどまらないなにかが見えたような気がした。女の顔らしきものがそこに見えたのだ。つまり、彼の顔はほんの一瞬、男っぽくもなければ、幼くもなく、年齢を感じさせず、時間を超越していた。(ヘッセ『デーミアン』) 5. 3

 

おそらく最も大変なことは、他人と協力して物事を終わらせることである。特に、世間からの目、外圧、自然災害、カリスマの鶴の一声、忘却といった外圧的な契機によってあらゆることが決定づけられてきた共同体にとっては。個人のきわめて個人的な次元の物事であっても、清算が難しい。(西村紗知『女は見えない』) 6

 

(断片の言葉で互いに自己表現するSNSだが)誰のものにもならない個人的な「物語」が、他人によって語られ直され、各人の生き方が互いに相対化されて、そうして共同体全体が生き直し始めるとき、そこに初めて断片ではない言葉といえるものが存在するだろう。 (西村紗知『女は見えない』) 10

 

私、結婚することにしました。好きな人じゃないけど。・・・片想いの彼氏に、実る希望のない恋をして何年も何年も待つなんて、もうできません。でも結婚さえすれば、新しい課題や悩みがたくさんできるから、以前の恋心を振り捨て、忘れられるでしょう。(チェホフ『かもめ』) 13

 

[ハムレット] お前、美人か? [オフィーリア] なんのことでございましょう。 [ハムレット] お前が貞淑でもあり、美人でもあるなら、その二つは付き合わないほうがいい。・・美人は貞淑をたちまち売女(ばいた)に変えてしまうから。(シェイクスピアハムレット』) 17

 

文化の再帰性は、文化がただ「見られる」ものではなくて、「見る」者として見返してくる点にある。・・・文化は、いったんは自己滅却し、蘇生する。・・自己滅却の栄光の根拠は、守られるものの死んだ輝きにあるのではなく、生きた根源的な力(見返す力)に存しなければならない。(三島由紀夫『文化防衛論』) 20

 

「経済力」の高い人間は「魅力」さえも大いに身にまとっている確率が高いことは、さまざまなデータから明らかです。ある結婚相談所が、容姿と経済力の関係を調査したところ、男女ともに収入が高い人ほど容姿が魅力的だと判定された、という結果もあります。(山田昌弘『パラサイト難婚社会』) 24

 

意外にも調査によれば、女性の「容姿」と「結婚[率]」には関連性が少ないのです。理由は、(1)容姿が優れた女性は、相手の男性に求める基準も高い、(2)容姿が美しい女性は男性が敬遠しがち、(3)容姿がいまいちと自覚している女性は、早めに手を打つ」等々。(山田昌弘『パラサイト難婚社会』) 27

 

オノマトペとは何かという問いから始めた探究は、マトリョーシカのようにどんどん新しい問いを生んでいった。探究とは、より本質的な問いとの出会いである。こうして、オノマトペの探究は、言語習得、言語進化を考えることに変わり、いつしか言語の本質というエベレストの山頂を目指していた。(今井むつみ『言語の本質』) 31

 

西洋的「恋愛」と日本の「恋」とでは、やはり何かが違う。恋愛の心と心の交流という繊細な空間の成立の仕方が違う。「男―女」という横軸は同じだが、「聖―罪」が縦軸になるのが西洋的恋愛の空間、「自然―家」が縦軸になるのが日本的な恋の空間である。(秋山駿『恋愛の発見』) 6.3

 

本当は偶然などはありはしない。何かを必要とする人が自分にとって必要なものを見つけるとき、それを授けてくれるのは偶然ではない。自分自身、自分の欲求として必然がそういう必要なものへと導いてくれるのだ。(ヘッセ『デーミアン』) 7

 

愛は、請い願うものではありません。要求するものでもありません。愛には自分のなかで確信する力が必要なのです。そうすれば、愛は引きつけられるものではなく、まわりを引きつけるものになるのです。(ヘッセ『デーミアン』) 10

 

天地に仁愛などはない。万物をわらの犬として扱う。(『老子』) 14

 

お前は、時間を分けてやろうにも、もう相手がいない。・・・たった一人であり余るほど時間をかかえていても、今のお前には何になる? (エンデ『モモ』) 17

 

ただ人から愛されるだけの人間の生活は、くだらぬ生活といわねばならぬ。むしろ、それは危険な生活といってよい。愛せられる人間は、自己に打ち勝って、愛する人間に変わらなければならない。(リルケ『マルテの手記』) 21

 

彼はサフォーの愛の深さとはるけさとを思ってみた。愛する人間が二人の体を一つにすることは、ただ孤独をそれだけ深めるのにすぎぬ、と彼女はすでに考えていたらしい。・・二人の人間のうちで、あくまで一人が「愛する人」になり、他が「愛される人」になることを嫌ったのだ。(リルケ『マルテの手記』) 24

 

愛されることは、ただ燃え尽きることだ。愛することは、長い夜にともされた美しいランプの光だ。愛されることは消えること。そして愛することは、長い持続だ。(リルケ『マルテの手記』) 28