[演劇] キェシロフスキ『デカローグ5・6』

[演劇] キェシロフスキ『デカローグ5・6』 新国(小) 5.23

(写真は、第6話「ある愛に関する物語」練習風景、ワルシャワの巨大団地だが、空間の使い方が上手い)

今回は「デカローグ」5と6、それぞれ1時間。5は「ある殺人に関する物語」で深刻な内容だが、5、6ともに、愛と孤独が主題である。5ではまず、人々が日常生活でも妙にギスギスして、互いに敵意に満ちていることが示される。カフェの給仕もタクシーの運転手も、不愛想を通り越して、客に敵意をもっているかのようだ。ワルシャワで働く19歳のヤチェクは、故郷の村で、5年前に友人とふざけて酒を飲み、酔った友人がトラクターを運転して12歳の妹を轢き殺してしまった過去をもつ。不良少年として村から追い出されたヤチェクは、ワルシャワで孤独な生活を送っているが、ある晩、自分に敵対的な中年のタクシー運転手を殺してしまう。が、すぐ捕まり、その裁判で、死刑制度に疑問をもつ新米の若い弁護士が弁護するが、まったく無力で、ヤチェクは早々に死刑執行される。それだけの話だが、深みのある舞台だ。その一つは、関係者がすべて、ヤチェクの死刑について、内心ではとても嫌な思いをしていること。裁判長も検事も死刑執行の官吏も、仕事なので仕方なく死刑に関わっている。言葉では言わないが、自分の思想がどうあれ、実際に人間の誰かを死刑にするということは、感情的に非常に嫌なことなのだ。それが舞台で見事に表現されている。友人が妹をうっかり轢き殺してしまったことの偶然性、それで村を追い出されたヤチェクは、人々の敵意に囲まれ、誰にも愛されない孤独を味わう。これが彼に露骨な敵意を示したタクシー運転手を衝動的に殺してしまった原因の一つなのだろう。誰にでも起こりうることなのだ。(写真↓は、運転手、ヤチェク、弁護士)

6「ある愛に関する物語」は、非常な傑作。両親を早く失った19歳の郵便局員トメクは、たった一人の友人がシリアに行ってしまい、その友人の母と暮らしている。彼は1年以上前から、巨大団地の向いの棟に住む30代の美人画家マグダを、望遠鏡で覗き見している。マグダの裸やセックスを覗き見しても、性的に未熟なトメクは性欲が湧くわけではないが、孤独な彼はマグダを好きになってしまう。ニセ手紙を作ってマグダの郵便受けに入れたり、牛乳配達を引き受けたり、何とかマグダに近づこうとする。やっとマグダに会えて愛を告白するが、マグダはもちろん迷惑がる。が、実は、娼婦的な女マグダもまた恋愛がうまくいかず孤独なのだ。ふと、いたずら心から、彼女はトメクを自室に入れ、自分の体を服の上から彼に愛撫させる。未熟な少年トメクは、服のまま、たちまち射精してしまい、ショックで大泣きする。大泣きしただけでなく、自宅に戻った彼は、洗面器で手首を切り自殺しようとする。が、すぐに発見され、一命はとりとめて入院で済む。退院したのち、彼はばったりマグダと遭遇する。望遠鏡ではなく至近距離で見つめ合う二人は立ち尽くし、終幕。憎しみは消え去り、おそらく、その瞬間に本物の愛が生まれたのだ。(写真↓は、マグダの恋人の男と、トメク)

元の映画版、2分間と、1分間の動画

デカローグ 第6話 ある愛に関する物語の予告編・動画「予告編」 - 映画.com (eiga.com)

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