[オペラ] モーツァルト《フィガロの結婚》 Metライブ

[オペラ] モーツァルトフィガロの結婚》 Metライブ 東劇 8.26

[写真↓は舞台。フィガロを黒人の男性歌手(マイケル・スムエル)にしたのが珍しい]

2025.4.26 Met上演、リチャード・エア演出、指揮は女性のヨアナ・マルヴィッツ。私は、《フィガロ》は実演だけで70種以上の舞台を観てきたが、今回はとりわけ演出が素晴らしかった。回り舞台を使って幕と幕が連続的に続くのは、「全体が一日の出来事」というアリストテレス「三一致の法則」に合致する《フィガロ》にふさわしい。螺旋階段など上下の空間をうまく活用するので、たとえば第4幕、伯爵夫人の服装でアリアを歌うスザンナが、フィガロの視線からちょっと後方に隠れて、声だけになり、替りにスザンナの服装の伯爵夫人がフィガロに見えていることが観客にもよく分かる。何よりも第三幕冒頭の伯爵/スザンナの駆け引き場面が豪華な食卓なので、そこがそのまま結婚式になり、さらに終幕の大団円に引き継がれるのがいい(写真↑)。伯爵夫人の哀しみのアリア ⇒ マルチェリーナがフィガロの母であることが分るお笑いシーン ⇒ そよかぜのデュエット ⇒ 結婚式 ⇒ 第4幕の全体が、こんなにうまく流れる舞台は珍しい。

 そして、<愛の現場>がとても楽しく表現されている↓。第2幕、「恋とはどんなものかしら」だけでなく、伯爵夫人とスザンナがケルビーノを女の子服に着せ替えて、いちゃつくシーン。そして第4幕、伯爵がスザンナと錯覚した自分の妻の手を舐めて「若い女の肌は柔らかくていい!」とうっとりするシーン(=伯爵夫人の険しい視線)。恋というものは、かくも楽しく、ちょっと逆説的、コミカルで、このうえなく美しい!


 この舞台は、バルバリーナがとても魅力的に造形されている。アドルノの「ツェルリーナ賛」を思い出したが、バルバリーナもツェルリーナも、このうえなく可愛く美しく魅力的な「尻軽少女」、たぶんモーツアルトは二人が大好きだったのだろう。この二人は、女の子なら誰でも見境なく好きになっちゃう「尻軽少年」ケルビーノの女性版なのだ。

下記の下の方に動画が8つありました。

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