ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』

charis2011-10-17

[オペラ] イル・トロヴァトーレ 10月17日新国立劇場


ヴェルディ中期の傑作オペラ『イル・トロヴァトーレ(=吟遊詩人)』を観ました。ヴェルディといえば、英雄、王、軍人などが勇ましく活躍する「マッチョのオペラ」が多く、軟派へたれ系の私は、どちらかというと好みではありません。恋愛ものの『椿姫』は別ですが。でも、『イル・トロヴァトーレ』は、なかなか味わいがありました。それは、「マッチョ+マザコン」というか、母と息子の愛情がこの作品の基調だからです。


ルーナ伯爵と吟遊詩人のマンリーコとは、実の兄弟だがそれを知らず、美女レオノーラをめぐって争います。そこに介入するのがジプシー女のアズチェーナで、マンリーコはアズチェーナを実の母だと誤って思い込んでいる。レオノーラを取り合う二人のマッチョの戦いが主筋ではありますが、実は、マンリーコはマザコンで、アズチェーナに甘えるし、アズチェーナが火刑になりそうと分り、母親を助けようとします。彼の関心は恋人レオノーラよりはむしろ母親アズチェーナにある。第4幕、獄中のマンリーコとアズチェーナのしみじみとした二重唱が、とりわけ美しいと感じました。ヴィルディも最初は、この作品のタイトルを『アズチェーナ』にしたかったそうで、実の子供を失った代りに赤ん坊のマンリーコを育て、愛したアズチェーナは、とても素晴らしいキャラクターです。彼女こそこの作品の本当の主人公だと思いました。(下の写真は、第4幕最後、左からルーナ伯爵、レオノーラ、マンリーコ)


今回の舞台は、ドイツ人演出家ウルリッヒ・ペータースの演出ですが、母親アズチェーナと恋人レオノーラの間で引き裂かれるマンリーコを強調していました。指揮のピエトロ・リッツォは若い人。レオノーラだけ、原発事故の影響を憂えて来日しなかった当初の予定歌手と違いましたが、一部歌手の来日が中止されても高水準の舞台を維持できる新国オペラは大したものだと思います。