オペラ『Four Nights of Dream(漱石『夢十夜』より)』

charis2017-10-01

[オペラ] 長田原『Four Nights of Dream(漱石夢十夜』より)』 東京文化会館・小ホール 9月30日


(写真右はポスター、下は、原作の第十夜、左から、女、庄太郎、健さん、そして原作にはないナレーターの女)

在米の作曲家、長田原(おさだ・もと)が、漱石の『夢十夜』をオペラ化したもので、2008年初演。今回は、アメリカ人のアレック・ダフィー演出。珍しい上演なので、文化会館小ホールは満席だった。原作から四つ選んで、(1)第二夜、(2)第十夜、(3)第三夜、(4)第一夜の順で、休みなしに全体で90分。四つの選び方と並べ方が上手いと思う。(1)悟れない侍の滑稽な話、(2)美形の男子庄太郎が謎の女についていって豚に舐められる、やはり滑稽譚、(3)背中に負ぶっていた六歳の子供が百年前に殺した盲人だと分かった怖い話(写真下↓、左端が子供を負ぶる男、後は殺された盲人)、(4)死んだ美しい女の墓で、星のかけらとともに百年間待つ男の、とても美しい純愛の物語。

漱石の『夢十夜』は、どの話も「こんな夢を見た」で始まる夢の光景だが、実際に我々が見る夢ほど支離滅裂ではなく、しかし不条理に満ちた幻影から成り立っている。オペラ化してみると、とても美しい。私は第十夜が一番好きなのだが、純愛の第一夜も良かった。悟れない侍の滑稽さも、背中の子供が百年前に殺した盲人の男に変る怖さも、うまく表現されている。昨年の川端康成眠れる美女』もよかったが、日本の小説にはオペラのよい素材がたくさんあるのかもしれない。(下記の写真は↓、9月13日から三回ほどニューヨークのジャパンソサエティで上演されたもの、庄太郎はパナマ帽が似合う)


音楽は、日本の祭りの神楽や、太鼓、笛などの要素と、西洋の無調の現代音楽風の旋律とが混淆したもので、歌詞はほぼ原作の科白を抜粋したもの。音楽は新鮮でよかったが、どこか「優しい」「懐かしい」感じがあり、もう少し突き放して、尖がった、無調の現代音楽風にした方が、作品の不条理性が際立ったと思う。指揮は、謙=デイヴィッド・マズアで、クルト=マズア(妻は日本人)の息子。昔、父マズアの指揮を二三度観たことがあるが、息子はとても若々しい。


下記の短い動画に、作曲者と演出家のインタヴューがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=kRX_wRtUw14