[オペラ] ブリテン『夏の夜の夢』

[オペラ] ブリテン『夏の夜の夢』 新国 10月4日

(写真↓上は、二組の恋人たち、下は、ロバになったボトムと妖精の女王、そして妖精を演じるボーイソプラノたち、マクヴィカー演出はいつも空間構成が斬新、「夜」がとても幻想的に表現されている)

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『夏夢』は、古くはパーセルのオペラ化があり、メンデルスゾーンの劇音楽、それを使ったバランシンのバレー化など、どれも良かったが、1960年作の本作も素晴らしいオペラだ。何よりも音楽がいい。12音技法に基づきながら、調性的に聞こえる美しい旋律に溢れている。特に第三幕は演劇と音楽がうまく融合して、稀有の舞台になっている。ボトムたちのドタバタ喜劇で、男たちの不満には前衛音楽的不協音が伴い、女装した男の花嫁が愛を囁くときは美しい調性的旋律が寄り添う。少人数オケなので、響きの厚みはないが、楽器ごとの澄んだ音がくっきり分離して、チェレスタやハープなどの「楽器音」が美しい。アドルノは『新音楽の哲学』で、12音技法以後の現代音楽は、旋律の形式性よりも音の素材性の魅力に多くを負っていると言ったが、それは本作にも当てはまる。妖精の王をカウンター・テナーにしたのが、とてもいい。王とはいえ、妖精だからマッチョではないのだ。妖精たちをボーイソプラノにしたので、重唱や合唱には澄んで透明な美しさがある。そして、パックは科白だけで、コンテンポラリーダンスのようなアクロバティックな身体表現をするのが、際立った対照性を生み出している。この人(河野鉄平)、ダンサーかと思ったら、オペラ歌手なのだ。(写真下は、劇中劇の花嫁と新郎、その下は左から、端がパック、妖精の王、女王、彼女の寵愛する少年)

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『夏夢』は構成がかなり複雑で、街と森とが対照世界をなし、ドタバタ喜劇の劇中劇が両者を媒介する。最初、二人の恋人ハーミアとライサンダーの結婚を頑固な父親が許さず、二人は森に駆け落ちすることになるが、その最初の場面がないので、ちょっと心配したが、第三幕でアテナイ公爵の結婚と合わせて回想的に説明されるので、初めて見る人も分ったと思う。『夏夢』は、結婚を寿ぐのが主題だが、それぞれの立場をもつ街の人の結婚のそれなりの難しさと、妖精の王夫妻の夫婦関係の難しさなど、それぞれ結婚という試練の滑稽さが同時並行的に描かれ、最後にそれが一挙に解決し、めでたしめでたしとなる。これは、オペラ化に実に適した素材と言える。今回の舞台は、どの夫婦も、恋人たちも、生き生きとしており、それがとてもよかった。(写真下は、ディミートリアスとヘレナ)

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6分間の映像がありました。

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