風姿花伝、ジュネ『女中たち』

charis2018-12-12

[演劇]  ジュネ『女中たち』  東京・下落合 風姿花伝シアター 12月12日


(写真右は、姉のソランジュ(那須佐代子)と奥様(コトウロレナ)、原作とは違って奥様は若い、写真下は、妹のクレール(中嶋朋子)とソランジュ、手前の丸い輪のようなものは少し傾いたり回転もする、他者と自我の関係性の<ねじれ>を象徴しているのか、簡素だが効果的)

この作品は、姉妹でもある二人の女中が、女中と奥様の役割に替えて演じる「奥様ごっこ」をしているうちに、演技のはずだったのに、自我と他者が幻想的に交替してしまい、奥様に飲ませるはずの毒薬を自分が飲んでしまって死ぬという話。奥様/女中という権力関係が入るから、「ごっこ遊び」における「主人と奴隷の弁証法」があり、自我を必然的に不安定にし、遊びが遊びでなくなる「ごっこ遊び」の怖さを描いているともいえる。途中から奥様自身も現れ、たぶん奥様は女中の陰謀の可能性に気付いているが、気付かないふりをするという仕方で「ごっこ遊び」に加わる。そして、女中たちは、「恋人の?牛乳屋の若い男」のことをちらりと口にするが、これも性的妄想による「ごっこ」らしいところがある。この舞台は、こうした三人の女の息詰まるような濃密な「ごっこ遊び」をうまく表現できている。奥様の美しいドレスを着ると、本当に美しくなってしまう↓。

女中たちは、奥様に自分たちの「存在をはく奪されている」ように感じているので、奥様に対する激しい憎しみを持っている。開幕から始まる二人の「奥様ごっこ」では、この憎しみを架空の奥様に向って激しくぶつけることによる解放感が高揚し、女中たちは楽しそうに「ごっこ遊び」をしている。しかし、「ごっこ遊び」を終わらせるはずだった目覚まし時計が少し早く鳴ってしまい、「遊び」の最後に来るはずだった奥様殺しは未遂に終り、姉妹は、いきなり奥様殺しの本番を演じなければならなくなる。女中たちは、奥様の夫の軽微な犯罪を手紙で警察に密告するが、夫はすぐに釈放されてしまい、夫からかかってきた電話を受けて、女中たちは激しく動揺する。無意識だろうか、この家のもっとも高価なティーカップに毒薬入りの「煎じ薬」を作ってしまったので、奥様も、無意識に抵抗を覚えるのだろうか、断固としてその煎じ薬を飲まない。何度もカップを口まで持ってゆき、飲みそうになるたびに、しかし飲まずにカップを離すシーンは、女中たちの視線と表情がそのたびに苦悩に変り、実にスリリングだ。そのあたり、二人の役者は怖いくらいに本当に上手い。この作品の本当のクライマックスは、奥様が夫を迎えに出て行ってしまったあと、女中たちの「奥様ごっこ」が意図せずに始まってしまうところにある。毒殺に失敗し、陰謀がばれることが必然となったために、二人は激しく絶望し、姉はお金を盗んですぐ逃げようと言うが(そして、実際それは可能だったはずだが)、妹は打ちのめされて立ち上がれない状態になっており、二人は奥様の部屋から出られない。そして無意識のうちに再び「奥様ごっこ」が始まってしまうと、二人は元気になり、激しく雄弁になり、そして奥様を激しく罵しっているうちに、弱気だった自我が転倒したまま強固なものになり、つまり自分が奥様になってしまい、毒薬を飲んでしまう。この舞台では、原作では若くない奥様を、とても若くしたことによって、女中たちの高齢さが、いっそう怖さを生み出している。