ケラ 『フローズン・ビーチ』

[演劇] ケラ・サンドロヴィッチ『フローズン・ビーチ』  シアタークリエ 7月31日

(写真↓は舞台、カリブ海のある島の豪華な別荘の一室、1887年、1995年、2003年の三回、友人である4人の女たちがこの部屋に集まる。写真下は、左から市子(ブルゾンちえみ)、千津(鈴木杏)、愛(花乃まりあ)、咲恵(シルビア・グラブ))

f:id:charis:20190715170757j:plain

f:id:charis:20190801063439j:plain

今回は、ケラは上演には関わっておらず、鈴木裕美による演出。1999年の岸田戯曲賞受賞作品で、選考委員が言ったように、その時代の気分が先鋭に表出されている。「バブル期からその崩壊までの過程の、その時代感覚を軽やかに辿っている」(別役実)、「今のむかつくという気分に、あっけらかんと正直であり、なおクレバーな作品。市子というキャラクターはこれまでの日本の戯曲に出てきたことのない新しい狂人である」(野田秀樹)。1887年から2003年までの16年間、バブル期の狂気に近い躁状態から、崩壊後の鬱状態への転換が、4人の女性の感情と思考と行動にうまく表現されている。彼女たちは皆、高校生の頃から薬物でラリったり、どこかぶっ飛んだところがあり、親友でありながら激しく互いを憎むところもある。相手を殺そうとするのだが、いつも思わぬ偶然が働いて失敗し、殺人は行われない。そして、16年後は、バブル経済は崩壊し、島も別荘も地盤沈下で海中に沈むが、4人は和解する(写真↓)。

f:id:charis:20190713000217j:plain

「ボディコン・スーツ」「ビート・たけしのフライデー殴り込み」「村上春樹の『ノルウェーの森』」「バブルの崩壊」「オウム真理教事件」などの話題が、感情の狂騒と躁/鬱に対応して、実にうまく取りいれられている。女の生々しい欲望があちこちに顔を出すのもとてもいい。選考委員が何人も言っているように愛の双子の姉の萌の死が、後半の展開とは無関係に終わっており、劇の「全過程が的確に構造化されているとはいえない」(別役)。ただ、野田を始め多くの委員が言った「前半は良いが後半は作りが雑」というのは違うと思った。恋愛も結婚も友情も破綻し、激しく苦しむ彼女たちが、16年間を経て、憎しみ合う若者から、友情と友愛と取り戻す大人の女性へと変るのが、この作品の素晴らしいところだ。前半は、彼女たちに共感できず、いったい何だコイツラはと感じたが、舞台の最後には、彼女たちの誰をも、とても愛おしく感じる。終幕、愛のピストル自殺が失敗に終り、「さあ、生きるわ!」と決心した彼女が、嬉しそうに三人を追って海に飛び込み、四人の歓声が上がるシーンはとてもいい。登場人物たちへの愛おしさで終わるということは、この演劇が成功しているということだ。

f:id:charis:20190713000215j:plain

f:id:charis:20190801063644j:plain