[演劇] オスカー・ワイルド『理想の夫』

[演劇] オスカー・ワイルド『理想の夫』 新国立劇場演劇研修所・15期生終了公演 2月5日

(写真上は、チルターン卿とその妻ガートルード、下は、ゴーリング子爵とチルターン卿の妹メイベル、俳優は頑張ったけれど、なかなか「貴族の雰囲気」を出すのは難しい、映画版『理想の結婚』1999では、ガートルード=ケイト・ブランシェット、ゴーリング卿=ルバート・エヴェレットで、いかにも貴族らしかった)

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そもそも、ワイルドの『理想の夫』は、傑出した作品だと思う。ラヴ・コメディなのだが、悲劇と紙一重の非常に「重い」ラブ・コメなのだ。今、外務次官であるチルターン卿は、22歳のとき、スエズ運河に関する公文書から機密情報を知り、それをある政治家に漏らすことによって、運河の株で大儲けをして、それが彼の政治的出世の端緒になった。その秘密は18年間守られてきたが、彼が秘密を洩らした政治家の愛人だったチェブリー夫人が、その秘密を知り、チルターン卿を恫喝する、というのが物語の骨子。チェブリー夫人(末永佳央里)が、今回はもっとも貴族らしく見えたというのは皮肉。(写真左↓)

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本作では、チルターン卿とゴーリング卿の深い友情も主題の一つで、第2幕冒頭で、ゴーリングに「誘惑に対する弱さ」を指摘されたチルタターンはこう反駁する、「いや、僕は弱くはない。誘惑には負けるために力と勇気を要するものがある。たった一瞬のために自分の全生涯を賭ける、その賭けにはとても勇気がいるんだ」。『理想の夫』には素晴らしい科白が溢れているが、これがたぶん最高の科白。だから、ラブコメといっても悲劇と紙一重なのだ。そもそも『理想の夫』は、ワイルド自身のト書きがキツイ。ゴーリング卿については「上品な顔で、感情をほとんど顔に出さない。彼は切れる頭脳をもっているが、他人にはそう思われたがらない。一部の隙もないしゃれ者である。もし人からロマンティックな人間だと思われたら、おそらく気を悪くするだろう。人生をもて遊んでいるが、世間との折合は至極よい」。ガートルードについては「端正なギリシア風の美人、27歳くらい」。チルターン卿については「40歳、だが年よりはいくらか若く見える。・・彼の物腰には一点非の打ちどころもない気品がある。きりりと引き締まった口と顎は、奥深い目にひそむロマンティックな表情と著しい対照をなしている。・・ヴァンダイクなら、好んで彼の頭を描いたことだろう」等々。どうだろう、とても難しいキャラではないか。この役を完全に演じられれば十分に貴族に見えるだろうが、でも15期の研修生たちはよくやったと思う。

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