映画『パリ、ジュテーム』

charis2007-04-20

[映画] 『Paris, je t'aime新宿武蔵野館




マイナーな映画にも、味わい深く、良いものがある。今日、上映最終日なので『パリ、ジュテーム』を観た。18人の監督が「パリの街」をテーマに、たった5分間で作った映像を集めたオムニバス映画。だが、とてもよくできている。一つ一つが、スナップ写真のように美しく、科白がよく練られている。

たとえば、若い女の子をナンパしようとセーヌ河畔で待ち構える少年たちを魅了したのは、何とヘジャブをかぶったイスラム美少女、残念でした、君たち。あるいは、パリに働く若者たちの「淡い恋」を映像が追う。中国人、アフリカ系黒人、ブラジル人など、さまざまな国の若者の表情が美しい。そして、若者たちとほぼ同数の、中年や老年のカップルも恋をする。これがいかにもパリらしい。ふっくらした顔になったファニー・アルダン、骨ばった厳しい顔になったジュリエット・ビノシュ、あまり変わらないドパルデューなど、名優の懐かしい顔が出演している(2006年作)。そしてつねに人間と一緒に映っている「石の街」パリの質感のようなものが、どれも目に沁みる。


18個の話の中で、一番気に入ったのは、ラストのこれ。

アメリカの郵便局で働くさえない独り者の中年女性キャロル。彼氏なし。愛犬をしばらく預けて、あこがれのパリにやってきた。2年間習ったフランス語で店員に話しかけてみるが、向こうは英語で応じる。レストランでもカフェでも、モンパルナスタワー屋上から眺めるパリも、彼女は一人だから、せっかくの感動を伝える相手がいない。彼女に「パリらしい恋が始まる」こともない。少し寂しい? だが、14区の小さな公園のベンチで、周りの若者、中年、老人の表情を見ているうちに、彼女には、今までに感じたことのない不思議な感情が生まれた。そう、悲しみと喜びとが交じり合う幸福。彼女は思う。ああ、パリに来たんだ! 生きているんだ、私。Paris, je t'aime.