K.ハンター『カフカの猿』

charis2012-05-05

[演劇] K.ハンター主演『カフカの猿』 三軒茶屋シアター・トラム


[写真は、ロンドン・ヤングヴィック劇場での同上演より]

カフカ寓話集』にある短編「ある学会報告」(1917)を、コリン・ティーバンが翻案したもの。イギリスの女優キャサリン・ハンターが一人で演じる。演出はウォルター・マイヤーヨハン。物語は、アフリカで捕えられた一匹の猿が、ドイツへ連れ帰られる途中で、檻の中から船員たちを観察しているうちに、握手、唾を吐く、タバコを吹かす、酒ビンを飲み干すなど、人まねを次々に覚えて人気者に。拍手喝采されて、思わず叫んだ声が「よう、兄弟(きょうでえ)」という人間の言葉だった。ますます大人気を博して、ドイツの見世物小屋で数々の演技をすることになる。猛勉強の結果、人間の言葉もマスターし、数年の後には「ヨーロッパの人間の平均的教養を身につけた」。そしてある日、学会に呼ばれ、サルから半猿半人になったこの5年間の経験を、聴衆たちを前に報告する。


その聴衆たちが、シアター・トラムの観客である我々である、という設定で劇は始まる。全体が55分で、とてもよく出来ている。何よりも、キャサリン・ハンターの猿の演技が素晴らしい。人間が猿に近い動きをしていると見ることもできるし、また、猿がいかにも人間風に振舞っていると見ることもできる。人間には猿の要素があり、猿には人間の要素があるのだ。極限まで鍛えられた身体パフォーマンスによって、こういう演技が可能になる。猿の語りがまたいい。「観客の皆さんも猿から進化なさったわけですし、ほとんど私と変わりませんよ」「人間は空中ブランコなんかやられていますが、ありゃ自然の本性をからかっているだけで、猿から見たら噴飯物で、ちゃんちゃらおかしいだけですね」「空中ブランコなんかを“自由”だと思ってらっしゃるようだけれど、そんな“自由”なんか欲しくありません、私に欲しいのは“出口”だけです」「人間て、簡単にまねることのできる動作しかしないんですね」等々。猿の“観察報告”という鏡には、悲しいまでに人間の習性が映し出されている。英語上演に字幕が付くが、字幕がやや短すぎるか。もう少し語りの細部を字幕化できるのではないか。字幕が長いとそちらに目が行ってしまうのを避けたのだと思うが。以下で動画が見れる↓。
http://www.youtube.com/watch?v=r8bpaKvx78o