ヘンデル『リナルド』

[オペラ] ヘンデルリナルド』 北とぴあ 11月29日

(写真は舞台、左から総大将ゴッフレート、英雄リナルド、ゴッフレートの弟エウスターツィオ、そして誘惑するサイレンたち)

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オケは、寺神戸亮指揮のレ・ボレアード。1711年、ヘンデル26歳の作品。男性はバリトンが一人いるだけで、カウンターテナーが活躍する作品。カウンターテナー中心のオペラは初めて見たが、とてもよかった。マッチョであるはずの総大将ゴッフレートもメゾソプラノの小柄な女性(布施奈緒子)なので、全体が男なのか女なのかよく分からない不思議な作品。昨年見た『アルチーナ』(ヘンデル)もトランスジェンダー作品で、男の役をほとんど女が歌う宝塚のような不思議な作品だったが、『リナルド』も似たところがある。『リナルド』は、オケの音楽が腰が据わっているというか、構造がしっかりして、全体が通奏低音のようなので、カウンターテナーたちの高音域の歌とよくマッチする。反対にリュリのオペラでは、オケの音楽全体が抒情的な旋律となって、ふっと流れる感じがあるが、ヘンデルのオケの音楽はどこまでもやや低音域の通奏低音的な感じだ。それがまた歌と対照的でとてもよい。そしてチェンバロの旋律が、オケの音楽の中からふっと浮かび上がることがあるが、その旋律は澄んで明るく天国的で、ものすごく美しい。物語はタッソー『解放されたエルサレム』にもとづいているそうだが、よくあるお姫様の救出物語で、別にどうということはない。主役の英雄リナルドやアルミレーナ姫が、どちらかというと凡庸な役柄であるのに対して、敵のサラセン軍の魔女アルミーダ(湯川亜也子)がすばらしい。アルミーダこそ本当の主役ではないかと思ったが、それは歌手がよかっただけでなく、アルミーダは主役たちと違って恋人に裏切られて激しく苦悩するからだと思う。『アルチーナ』もそうだったが、前半は話がなかなか進まずやや退屈だったが、後半は大いに盛り上がって、ほぼ完璧な構成といえる。マッチョ役を女性やカウンターテナーが歌うことによって、全体がやや“倒錯的”ではあるけれど、いや、そうだからこそ、このうえない美が現出するのだ。そこが『リナルド』や『アルチーナ』の魅力なのだろう。(写真下は、魔女アルミーダとアルミレーナ姫、その下はサイレンに誘惑される英雄リナルド)

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