近松半二:新版歌祭文/近松門左衛門:傾城反魂香

[文楽] 近松半二:新版歌祭文/近松門左衛門:傾城反魂香  国立劇場 2月17日

(写真は↓、新版歌祭文のお染と久松)

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「新版歌祭文」野埼村の段と、「傾城反魂香」土佐将監閑居の段の二つを見た。前者は悲劇、後者は喜劇で対照的だが、どちらも非常によくできた作品だと思う。18世紀初頭、大阪でお染と久松の心中事件が実際にあり、それをネタにたくさんの作品が作られたが、そのあとまた作ったと言う意味で、「新版」とタイトルにある。「心中天網島」と同様、二人の女が主人公で、純情な田舎娘のおみつが、結婚相手の久松を諦めて、都会娘の美人のお染に返すのが悲しい。結婚の盃を交そうと、父が花嫁衣裳になった娘おみつの帽子を取ると、下は毛を切って尼になっている。老母の介護をしている孝行娘のおみつが、結婚できると大喜びしたのに、お染と久松が心中覚悟と知って、結婚を諦めるまで約1時間。「嬉しかつたはたつた半時」とおみつは嘆く。しかし実は、おみつが結婚を譲ったとしても、実家に連れ戻されたお染は、別の結婚を強制され、結局は久松と心中する、と我々観客は知っている。だから、大阪へ二人が連れ戻される最後の舟と堤のシーンはとても悲しい。しかしそれにしても、久松は、終始うつむいて、めそめそしているばかりで、ほとんど何も言わないのは一体何だろう。「心中天網島」と同様、女二人は<愛の主体>として決然と行動するが、男はだらしがなくて本当にダメだ。男が愛の主体になれないというのは、近松門左衛門だけでなく近松半二もそうなのか。(写真下のみは↓10年前のものだが、やって来たお染と争うおみつ)

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傾城反魂香の方は、とにかくめちゃ面白い喜劇で、吃(ども)るダメ絵描きの又平が、奇蹟的に凄い絵を描き、吃りが直るというメデタシメデタシの話。彼の吃りと、それが直ってすらすら語り出す移行が面白いので、義太夫の語り芸が最高度に発揮される作品だ。今回は、六代目竹本錣(しころ)太夫の襲名公演なので、この作品が選ばれたということなのだろう。人形の動きも圧巻で、とにかく面白く、分りやすい喜劇だ。(写真↓は、上から、逃げ出した虎[左]、次が、奇蹟の絵、そして一番下の左が、竹本錣太夫)

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