「シュルレアリスムと絵画」展  ポーラ美術館

[美術] 「シュルレアリスムと絵画」展  箱根・ポーラ美術館 3月3日

(写真↓は、デ・キリコヘクトルとアンドロマケ》1930)

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ポーラ美術館で、「シュルレアリスム絵画」展を見た。「シュルレアリスム絵画」ではなく、アンドレ・ブルトン主導の「シュルレアリスム運動」と人脈的に関係していた画家たちの絵を集めたもの。シュルレアリスムの影響を受けた日本人画家の作品も、束芋に至るまで展示されており、面白かった。ブルトンの言う「シュルレアリスム」は、自動記述(オートマティスム)に見られるように、反理性、反近代という性格が強いが、絵画はだいぶ違うと思う。今回の展示で、強い印象を受けた絵を下に挙げてみるが、ピカソなどのキュビスムと親近性を感じる。キュビスムは、我々の眼に見える現象を描くのではなく、現象のさらに深い次元に存在する「物自体」を描こうとしている。ピカソの絵に、人体を幾つも異なる視点から見た様子が重なって描かれているものがあるが、あれは「概念のレアリスム」であり、たとえば製図で、ある物体の上面図、正面図、側面図が三つ一緒に一平面に描かれているのと同じである。「シュルレアリスム」も、「現実は(現象を)超えている」という意味に解せば、「概念のレアリスム」と共通するとことがあるだろう。例えば上のデ・キリコの絵など、全体が幾何学で描かれているキュビスムそのものではないか。(写真↓は、マックス・エルンスト《偶像》1926)

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マックス・エルンストのこの絵も、私にはキュビスムの絵に思われた。左側の細く長い鍵穴のような形、黒い太線、そして人体の線も、きわめて幾何学的である。(写真↓は、ルネ・マグリット《生命線》1936)

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マグリットの《生命線》も素晴らしい。岩のギザギザした線はナチスに侵攻されたベルギー国境の形であり、鉄砲はもちろんナチスを表わしている。この絵は、現実をとても深く捉えて描いていると思う。室内の裸の女性を描いているとしても、窓の外にはベルギーの街が見えており、それはナチスに侵略された街だからである。何か含意のありそうな《生命線》というタイトルもいい。日本の絵も印象に残るものが幾つもあった。(写真↓は、古賀春江《白い貝殻》)

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古賀春江1895~1933は男性だが、この絵も全体を幾何学で描いている。瑛九1911~60という人は初めて知ったが、日本人なのですね。この絵も↓、タイトルからも分るように、現象よりは本質を描こうとしているのだろう(写真は、瑛九《海の原型》1958)。

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