[演劇] プルカレーテ演出・野田版『真夏の夜の夢』

[演劇] プルカレーテ演出・野田版『真夏の夜の夢』 東京芸術劇場 10月21日

(写真↓は、今回の舞台と、その下は1992年初演の野田演出の舞台)

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シェイクスピアの原作を野田秀樹が改作し、それをルーマニアのプルカレーテが演出。野田版は、『夏夢』の物語をかなり変え、(1)場を日本にして、アテナイ公爵シーシアスとヒポリタとの結婚話をカットしたので、「結婚を寿ぐ」という全体の主旨がやや薄くなった、(2)代りに「恋とは魔法にかかること」という主題が前景化された、(3)妖精パックの他にメフィストという魔術師を造形し、魔法を活躍させた、(4)ヘレナの孤独を強調した。

 演出のプルカレーテはこれまで『ルル』と『オイディプス』を見たことがあるが、人間のグロテスクな肉体を強調し、しかしそこから高貴な美が一瞬立ち昇る素晴らしさがある。そして魔術師の活躍も野田版と親和的だ。今回の舞台は、CG映像が、妖精の国や魔法を現代アート的に表現する。(写真↓は、パックとメフィスト、下は、妖精の女王ティタニアがボトムを可愛がるところ、ボトムはロバではなく腹に顔が移った怪物的な人物)

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全体として、四人の若者たち(ハーミアとライサンダー、ヘレナとディミトリアス)の恋のもつれに焦点が当てられている。四人を老舗の割烹料理店の跡取り娘や板前などにして、店に出入りする業者たちを原作の劇中劇の職人たちに相当させて、うまく物語をまとめた。ヘレナ(鈴木杏)とハーミア(北乃きい)がとても可愛く、背の高低の問題や(ヘレナがのっぽで、ハーミアはちび)、二人の科白などは、原作に割と忠実に従っている。また、ヘレナの孤独を強調する際に、(原作にはない)男たちの同性愛的な関係が仄めかされるなど、ジェンダー的にも話が面白くなっている。(写真↓は、ヘレナ、下がハーミア、その下がディミトリアスライサンダー)

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『夏夢』の妖精の国をいわば強化して、魔法を活躍させたのは、野田の改作の成功といえる。美しい若者たちや妖精が舞台を楽しそうに走り回るのも、いかにも野田演劇的で、そもそも『夏夢』そのものが野田的な作品なのかもしれない。(写真↓は、職人たちの劇中劇)

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