今日の絵(8)  5月前半

[今日の絵8]  5月前半

1 Jan Massys : Susanna and the Elders, 1564

旧約ダニエル書より「スザンナと長老」、水浴び中のスザンナを覗いた巡回裁判官の長老が彼女に情交を迫り、「いやなら青年と密会してたと報告するぞ」と脅した、彼女は普通の人妻だが、この絵では女神のように美しい、彼女はまだ覗かれているのに気付かず、優雅にくつろいでいる、ヤン・マサイスはオランダの画家

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2 Rubens : Susanna and the Elders, 1608

多くの画家が描いた「スザンナと長老」は、スザンナが覗きに気付いていない/気付いて以降の情交を迫られる場面の二種類あり、これは後者、ルーベンスのこの絵では、昨日のマサイスとは違い、スザンナの衝撃を中心に描いている、ふくよかなスザンナもルーベンスらしい

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3 Artemisia Gentileschi : Susanna and the Elders, 1610

ルーベンスは覗かれたスザンナの衝撃を描いたが、17歳の女性画家によるこの絵はスザンナの拒否と抵抗を描く、アルテミジア・ジェンティレスキ(1593~1652)は、フィレンツェ美術アカデミー初の女性会員、絵の教師タッシに強姦されレイプ裁判になった、絵はそれ以前だが主題は似ている

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4 Guido Reni : Susanna and the Elders, 1620

同じく「スザンナと長老」、長老たちは見かけは「紳士」に見える、特に野蛮には見えないが、こういう人たちこそセクハラをするのかもしれない、二人の手の動きも早い、グイド・レーニは17世紀前半に活躍したイタリアの画家

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5 Chassériau : Susanna and the Elders, 1856

「スザンナと長老」、長老の目つきがギラギラしていてリアル、スザンナは美しく可愛いらしいが、怒った強い表情をしている、描いたシャセリオーはアングルの弟子だったが離反した人で、思想家トクヴィルの親友、最も美しい女性のヌード画を描いた一人

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6 Rembrandt : The artist's mother reading,1629

「読書」は多くの画家が描いた主題、これはレンブラント23歳の作品、母の9番目の子である彼の幼少時、信仰の厚い母は彼を膝に乗せて聖書を読んだ、この絵の本もぼろぼろに古くなっているから聖書だろう、レンブラントほど人間の感情、内面、人格までを深く絵に描いた画家はあまりない

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7 Jan Lievens:読書する老女1630

他の行為に比べて「読書」する人を描いた絵は、その人の内面、精神性、人格を深く表現しているように思う、当時はまだペーパーバックの安く軽い本はなく、老女の読んでいる本は重い、ヤン・リーフェンスはレンブラントと同じ工房で競い合ったこともある人

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8 Manet : Portrait of Emile Zola,1868

部屋にいるのは親友の作家ゾラ、ゾラは当時の美術サロンを批判しマネの絵を擁護した、この絵でもゾラが手にしているのは絵に関する本か、壁にはマネの関心の深いベラスケスや日本の浮世絵が貼ってある、ゾラを描くとともにマネは画家としての自分も一緒に描いている

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9 Renoir : Claude Monet Reading, 1872

新聞を読んでいるのはモネ、モネ1840~1926とルノアール1841~1919は1歳違い、「同じ光景を一緒に並んで描いている姿」の絵も幾つもある親友だ、この絵も、ゆっくり昇るパイプの煙など、くつろいだ雰囲気で、モネに対するルノアールの親しみを感じさせる

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10 Arbert Anker : ゴットヘルフの本を読む少女、1884

アンカー1831~1910はスイスの画家、読んでいる本のGotthelfもスイスの作家、アンカーはスイスの「国民画家」と呼ばれた人で、村人の生活をたくさん描いた、この絵も自分の娘だろう、彼女は自分の寝室で熱心に読んでいる、床の汚れや裸足なのが自然な感じを与える

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11黒田清輝 : 読書1891

黒田1866~1924が滞仏中に描き、サロンに入選したデビュー作、パリ郊外の美しいロワン村(画家たちがよく描いた場所)の、19歳の娘マリー・ビヨーをモデルに雇った、場所はホテルの二階の窓際、黒田は当時マリーの姉の離れを借りて滞在していた、鎧戸から漏れる乏しい光が顔や衣服に当たっている、読書は知性を豊かにする光なのだ

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12 Rubens : 二人の息子(アルベルトとニコラス)、1627

兄は8歳くらい弟は6歳くらい、ただし顔はもう少し年長のように見える多くの画家は子供の絵を描いている、子供を描くことは、青年、壮年、老年を描くのとは違う子供の「本質」を捉えるという意味で、画家の修練にもなったはずだ、モデルとして雇うというより、自分の子や親戚の子、近所の子を描いたのだろう

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13 Manet : A boy with a dog, 1861

子どもは、そこに存在しているだけで強い輝きがあり、画家はそれを捉えようとする、もちろん大人も含めて、およそ人は誰でも、今そこに存在しているだけで何らかの輝きがあるのだが、その輝きは個人それぞれに違う、それを捉えるのが再現芸術(ミメーシス)たる絵画の使命

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14 Monet : Portrait of Jean Monet Wearing a Hat,1869

モネの2歳の長男ジャン、帽子にはポンポンという飾りが、ふつう2歳の子供は長時間おとなしくモデルにならないはずだが、じっと父親を見詰める眼差しが生き生きと描かれており、全体に筆致も色数も少ないが、モネは我が子を完璧に描き切っている

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15 Renoir : Lucie Berard, 1883 ルノアールの描く子どもは、すべての画家の描く子どもの中でも特に美しい、それは子どもという存在の内に「幸福」を見ているからだ、この絵は、パトロンでもあった銀行家ポール・ベルナールの娘ルーシー、影響を受けたアングルとも印象派とも違う方向への転換期の絵

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16 Cezanne : Portrait of the Artist's Son, 1885

1871年生まれの一人息子ポール、パリでは田舎者と思われていたセザンヌは、社交や人づき合いの苦手な人だったが、ポールが生れた頃から画風が明るくなったと言われる、彼の存在は父セザンヌにとって大きな意味をもっていたのだろう、この絵の息子には「希望」が読み取れる

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