[演劇] 唐十郎『ベンガルの虎』

[演劇] 唐十郎ベンガルの虎』 新宿梁山泊、花園神社・紫テント 6月21日

(写真は舞台、どちらも主役の「水島カンナ」を演じる水嶋カンナ、水嶋は新宿梁山泊の看板女優だが、その芸名は本作の「水島カンナ」に拠るといわれる)

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唐十郎の弟子で新宿梁山泊を主宰する金守珍の演出。唐十郎状況劇場で初演したのは1973年だから、あさま山荘事件の翌年。『ベンガルの虎』はドタバタ喜劇の歌芝居だが、かなり深い思想性のある作品だ。『ビルマの竪琴』と『村岡伊平治自伝』をもとに物語が作られている。「水島」は『ビルマの竪琴』の「水島上等兵」がモデルであり、物語では、すぐ復員せず、戦地に残った日本人兵士の遺骨を埋葬し一部を日本に送っている。「カンナ」は日本に残してきた水島の妻という設定。ビルマベンガル湾に面しているが、物語はフィリピンとも合体し、女郎屋を経営していた大陸浪人村岡伊平治も登場する(風間杜夫が好演↓)。戦後、現地に残されたのは、日本人兵士の遺体だけではなく、東南アジアに渡った日本人娼婦たちも(いわゆる「らしゃめん」も現地にいる)、故国に帰ろうにも帰れず現地に取り残された。彼女たちの運命がこの劇の主題である。ヒロインの「水島カンナ」は日本に帰り、東京の下町で娼婦をしているが、それは現実なのか虚構の意識なのか分からないというシュールな作りになっている。『ベンガルの虎』は、唐十郎なりの戦争批判、東南アジアにおける日本帝国主義批判が伏線にあり、政治性・思想性をもった作品だ。「象牙」というのは「兵士の人骨」の隠語で、「象牙のハンコ」を作ると称する怪しげなハンコ屋が登場するのも、シュールな物語造形がとてもうまい。

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唐の『少女仮面』を見たときにも感じたが、この作品でも、場末感あふれるチープで猥雑でグロテスクに生きる人間の中に、高貴な純愛の美が一瞬スーッと立ち昇る。それを見るのは何という喜びだろう! 唐作品の魅力はたぶんそこにある。溢れる熱気、アナーキーなエネルギー、さまざまな秩序がどんどん崩壊してゆくのだが、どんなに崩壊しても、男と女の「愛」という美=調和は、決して消えることなく、人類が存在する限り最後の最後まで残る。それはどんな混沌・混乱の中にあっても存在する一抹の光、希望なのだ。どんなにグロテスクな混沌の中にも、愛=美の生み出す調和は存在する(写真↓)。舞台では、「水島カンナ」を演じる水嶋カンナと、「水島」を演じる宮原奨伍が、とても美しい。奥山ばらばの、髑髏をもつグロテスクな裸踊りも、それが鎮魂の振る舞いとなって、見事な調和の美となった。

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↓11年前の舞台の10分間の動画が、4分半あたり、海に飛び込んだカンナが(入水?)ブルトーザーのシャベル上で歌う終幕は圧巻です、私はここで涙が溢れました、『ベンガルの虎』はひょっとして唐十郎の最高傑作かもしれません

https://www.youtube.com/watch?v=1sDfzjiRvig

写真下は↓、練習する奥山ばらば、その下、坐っているのは役者たち。

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