[オペラ] アンソニー・デイヴィス ≪マルコムX≫ Metライブ

[オペラ] アンソニー・デイヴィス ≪マルコムX≫ Metライブ 東劇 1月29日

(写真は舞台、ニューヨークの空に宇宙船が現れ、そこからマルコムXが降りてくる) 

このように難しい主題がオペラで表現されることに驚かされた。1986年初演で人気を博したが、2001年の貿易センタービル事件以降は、アメリカ国内で高まる反イスラム感情ゆえに上演できず、ようやく2022年に再演された。インタビューで演出家が言っていたが、観客が物語を快く楽しめるような作品ではなく、アメリカの黒人差別が主題で、舞台でも白人が激しく非難されており、憎しみと苦しみの感情が全体を支配しているから、歌手も演出家もオケもダンサーもみな「辛い」思いを抱えながら上演しているという。(写真は、子ども時代と、イスラム教団と決別直後のマルコムX)

この作品は、黒人解放の運動方針に悩み、揺れ動くマルコムXの内面の苦しみに焦点を当てているので、ある意味、難解な作品だ。特に、彼はある時点からイスラム教徒となり、教団を中心に激しい運動を続けるが、やがて教団の指導者と衝突し、教団を辞める。そして、メッカ巡礼の後、「マルコムX」という名前もやめて「サバーズ」に改名して再出発。だがその直後、1965年には講演中に銃撃され暗殺される。彼の運動方針は、キング牧師などと違って、「分離主義」であり、「非暴力主義」にも不賛成のようにみえる。最初に、イスラム教に入信する必然性、そしてなぜ教団と決別したのか、「分離主義」の運動方針は変わったのか否か、そのあたりが、オペラだけからは分からない。(写真↓は、メッカに巡礼したマルコムX)

主題は難解だが、オペラ=音楽表現としては見事なものだ。アリアや重唱、合唱も少しはあるが、主要な部分は、コンテンポラリーダンスで表現され、ジャズ音楽が中心で、即興もたくさんあり、それにアフリカ由来のダンスや、他の種類の黒人ダンスも総合される。アメリカの黒人はすべて「アフリカに引き上げよう!」という運動もちらっと出てくるし、過去から未来までの様々な衣装で黒人が登場するから(写真↓)、全体として<黒人文化アイデンティティ>を真正面から打ち出している作品だ。歌手もダンサーも指揮者も演出家も、ほぼすべて黒人。マルコムXの「分離主義」とも呼応しているのか。それにしても、このような作品がオペラとして創られるアメリカはすごい。

1分20秒の動画

X: The Life and Times of Malcolm X: “Shoot your shot” (youtube.com)

1分の動画

X: The Life and Times of Malcolm X: “My name is Shabazz” (youtube.com)