[演劇] 岸田理生『リア』 劇団うつり座

[演劇] 岸田理生 『リア』劇団うつり座 上野ストアハウス 6.1

岸田理生1974-2003は初見だが、『リア』はユニークな作品だと思う。シェイクスピアリア王』の、長女ゴネリルが父リアを激しく憎むという、その一点だけを借用して主題にしており、娘が父を倒して、その権力を奪うという物語。男の子なら「父殺し」はフロイトによって前景化されたが、考えてみれば、女の子にも「父殺し」の欲望があってもおかしくはない。自分の子を支配したいという母性権力を欲望するのとも違って、あくまで父性としての権力を欲望する女の子の物語。

 

シェイクスピアの原作と違って、コーディリアは登場せず、代わりに次女ゴネリルが父親思いの優しい娘になっている。そして、父リアの影武者のような「母」も登場するので、おそらく母性の権力性との葛藤も描かれているのだろうが、そのあたりはよく分からなかった。全体に凝った作りなので、戯曲を読まないと細部は理解できない。ただ、演劇表現としてやや欠点があると思うのは、1時間45分全体が阿鼻叫喚の絶叫調なので、鑑賞はとても疲れる。これは劇団のせいで、作品のせいではないかもしれないが、憎悪の深い感情を表現するには、静かな時間を間に挟むことも必要で、それがないと感情表現が単調になりすぎる。とはいえ、『リア王』には複雑な主題が輻輳していることに気づかせてくれるユニークな作品だ。