翻訳をしました

charis2012-07-12

[翻訳] ロビン・レ・ペドヴィン『時間と空間をめぐる12の謎』(植村恒一郎、島田協子訳、岩波書店、6月27日刊)


久しぶりに翻訳をしました。イギリスの哲学者 Robin le Poidevin氏の『Travels in Four Dimensions ― The Enigmas of Space and Time』(Oxford University Press)です。古代哲学から現代に至る時間・空間概念を、哲学的に分析した本で、議論が上手なので面白く読めます。文学や歴史の話題もたくさん出てくるので、勤務校の同僚の英文学者である島田協子氏と一緒に訳しました。氏は、引用されている原資料や関連資料を調べることに長けているので、とても助けられました。


本書の特徴を二点ばかり挙げると、空間と時間をめぐる大きな対立を、粘り強く、じっくりと考え抜いた点にあります。ニュートンは、物体とは独立に存在する絶対空間を考え、ライプニッツは、物体と物体の関係として空間を考えました。通常は、前者と後者の空間理解は両立しないと考えられているのですが、著者は必ずしもそうは考えない。空間は、たんに視覚的な広がりではなく、幾何学的な性質も持つし、力が働く物理的な場でもある。空間というものの多面的な在り方に即して考えるならば、空間の在り方は、ある観点からすれば絶対的であると言えるが、しかし他の観点においては関係的であるとも言える。両者の重なりとずれがとても丁寧に考察されています。


もう一点は、時間についてですが、マクタガートパラドックスを、必ずしもA系列とB系列の二者択一ではなく、両立しうるものと考えます。B系列が基本にあると考えるのですが、A系列すなわち、過去・現在・未来という時間様相は人間の経験に不可欠のもので、これなしには時間というものはありえない。とはいえ、時間様相とくに「動く今」は、物理的世界との関係を完全に捉え切ることのできない不思議さを持っており、我々は、それなしには生きることができない“根源的なメタファー”の中で生きている、というのが著者の考えです。


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