ラドゥ・スタンカ劇場『ルル』

charis2013-03-01

[演劇] ラドゥ・スタンカ劇場『ルル』 3月1日池袋・東京芸術劇場


(写真右は日本公演のポスター、舞台写真はルーマニア上演だが東京公演も同一、下は、ルルを演じるオフィリア・ポピ、舞台冒頭のシーン、大きな鏡の前で踊り子を象徴的に表象する、黒く狭い空間に白が非常に美しい)

ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ劇場の公演。ドイツの作家ヴェデキント(1864〜1918)のルル二部作(『地霊・パンドラの箱』)を、ルーマニアの演出家シルヴィウ・プルカレーテが、さらに脚色し演出。『ルル』はアルバン・ベルクのオペラ版が名高いが、これは原作にもとづく演劇版。第1幕(85分)+第2幕(55分)の上演はオペラよりやや短いが、物語はほぼ同じで、パリの賭博サロンのシーンもある。際立った肉体の魅力によって男をすべて破滅させるファム・ファタールのルル。自分も次第に没落し、最後はロンドンでレズビアンの伯爵令嬢とともに切り裂きジャックに惨殺される。ルルを巡って男たちが右往左往するという意味では滑稽な喜劇的要素もあり、この上演では、お可笑しみのある細かいシーンで笑いを取っていた。しかし舞台全体にわたって、何とも言えない陰鬱で暗澹たる雰囲気が支配しており、西洋人の肉体の性的魅力がグロテスクに前景化され、それがすべて死へ直結する底なしの暗さ、怖さを感じさせる。(写真下は、ルルの愛人のシェーン博士と、自殺を迫られるルルは逆にシェーン博士を撃ち殺す)


今回のプルカレーテ演出は、際立って素晴らしいものだった。東京芸術劇場プレイハウス内特設ステージは、馬蹄形に大きな段差をもつ客席を配置し、底の部分の狭く細長い空間で演じられるので、観客は真下に見下ろすように眺めることになる。中央に置かれた細長い大きなテーブルが、まるで手術台のようにルルを晒す。ライトや鏡や写真が実に巧みに使われており、暗い空間でありながら、とてもスタイリッシュで美しい輝きに満ちている。第2幕では水を張った浴槽が効果的に使われ、パリの賭博サロンなのだが、一転してそこに藁が敷かれ、ロンドンのルルの極貧生活に場面が変わる。(写真下)


オペラ版を観たとき感じたのだが、『ルル』は日本人が演じるには難しい作品だと思う。その理由は西洋人の肉体のもつ性的な魅力が、体型の違う日本人には難しいという単純なことだ。日本人初のオペラ『ルル』上演を観たとき、肉体のもつ「怖さ」がまったく感じられなかった。演劇版では、2005年に白井晃構成・演出、秋山菜津子のルルで上演されたようだが(私は未見)、どうだったのだろうか。それに対して、今回のこのルーマニア版は、ルルだけではなく、他の人物のスラリとした長身のタキシード姿ひとつにも(魔術師の雰囲気というのだろうか)、性的な肉体のゾクッとするような「怖さ」が感じられた。



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http://www.youtube.com/watch?v=2PGdZhyBkqc