[今日の絵] 12月前半
1 van Eyck : The Ghent Altar (detail) 1432
音楽は非常に多く絵の主題になっている、独奏や独唱もあれば複数の人間で音楽する絵もある、今日からは複数で音楽する絵を少し、会話が複数人から始まるように、音楽もまた複数人が起源なのではないか、この絵は初期フランドルの画家ファン・エイク「ゲントの祭壇画」の一部、皆さん服が素敵で、違う方向を見ている
2 Tiziano : The Concert 1510
昨日のファン・エイクの絵もそうだが、みな服が素敵で、違う方向を見ている、中央の人はハープシコードを弾き、ヴィオラ・ダ・ガンバを手にした右側の人は、右手で中央の人の肩に触れ、中央の人はそれを受けて彼を見返している、左側の若い男性はまた別の方を見ている、コンサートの直前の光景なのか
3 Caravaggio : Musicians 1595
画家が音楽の絵をたくさん描くのは、何よりも人の表情が生き生きしているからだろう、音楽するときの表情は、読書、祈り、食事、化粧、入浴、労働などの時のそれとはまた違う、カラヴァッジオの絵は美少年や美青年が多いので、むしろそちらを描きたかったのか
4 Gerard van Honthorst : Musical Group on a Balcony 1622
ヘラルト・ファン・ホントホルス1592-1656はオランダの画家。この絵もバルコニーの皆さん楽しそう。音楽は、ひょっとして「踊り」からその一部が分離したものではないか? 人は嬉しくてたまらないと、おのずと体が動いて踊り出し、歌うように声が出る
5 Degas : The Chorus 1876
ドガは「踊り子たち」をたくさん描いているが、どれも「調和」に欠け、ちぐはぐで、ぎこちない場面が多い、この「コーラス」も同様だ、皆がばらばらで調和が感じられない
6 John Melish Strudwick : 黄金の日々 1907
ストラドウィック1849–1937は、英国のラファエル前派の画家、この絵は20世紀だが、この女性たちはどこか神話的に見える、「音楽music」の語源はギリシア神話の「ミューズmuse」なのだから、音楽のもたらす「調和」には、どこか神話的、天上的なところがある
7 Imre Góth : Concert 1920
イムレ・ゴス1893~1982はハンガリー出身のイギリスの画家、この「コンサート」はとても面白い。友人の誰かが演奏あるいは歌っているが、致命的なミスをしたのだろう、聴きにきた友人たちがショックを受けている、音楽はつねに「調和」をもたらすわけではない
8 Georgios Jakobides : Children's Concert 1886頃
ゲオルギオス・ヤコビデス1853~1932はギリシアの画家、子どもや家族の絵が多い、この絵も、子どもたちの「楽隊ごっこ」が楽しそう、でもお婆さんは耳を塞いでいる、音楽はこのような「不調和」も作り出す
9 Matisse : Music ,Collioure, spring-summer 1907
コリウールはスペイン国境に近いフランスの街、この絵はまだスケッチだが、弾く人、聴く人、踊る人の三者が空間的に配置され、いかにもマチスらしい「建築的均衡」だ
10 Lucian Freud : 大きな室内(ヴァトー以後)1983
ルシアン・フロイド1922-2011はイギリスの画家で、あのフロイトの孫。この絵はヴァトーの「ご機嫌ピエロ」のパロディ、家族だろうが、みな不機嫌な表情で、音楽を楽しんでいるようには見えない、「音楽は調和を作り出さない」のだ、剥き出しの配管などいかにも精神分析的な絵
11 Hans Memling : Portrait of an Old Man 1475頃
絵の究極の主題はやはり「顔」だ、我々は顔で個人を同定する、手を見ても誰だか分からないが顔を見れば誰だか分かる、顔にはその人の個性と内面が現れている、ハンス・メムリンク1430~94は初期フランドルの画家、この絵も、当人が今そこにいるかのよう
12 Frans Hals : Head of a boy 1640
フランス・ハルスの人物画はどれも、顔の生き生きとした感じがいい、ほぼすべての絵が斜めの視線で、はっきりした方向性を持っているが、この「積極的に何かを見ている」という感じが、顔全体の生き生き感を生み出す理由の一つだろう
13 Vermeer : Study of a Young Woman, ca. 1665–67
「真珠の耳飾りの少女」と似ているが、いわゆる「美人」でもなく、どちらかというと普通の家庭の娘のようで、生活の匂いのする顔だ、フェルメールの娘という説もあるが分かっていない、額の広さと、何か言いたそうな表情が印象的だ
14 Degas : Portrait de Jeune femme 1867
27×22cmの小さな絵だが、数あるドガの人物画の中でも名作であろう、眼が美しく、顔全体に気品がある、ドガは33歳、彼の従妹のジュリーという説もあるが分かっていない、おそらく女優とか踊り子ではなく、普通の家庭的な女性で、そこに非常な美しさをドガは認めたのだろう
15 Renoir : Smiling Young Girl 1878
ルノワールがサロンで成功するのは38歳の1879年だから、この絵はその少し前、顔を正面から描くのは難しく、また口をはっきり開けている絵も珍しい、この絵は「微笑む少女」と題されることが多いが、これが微笑みなのかどうか分からない、しかし、ある表情をきわめて的確に捉えている
16 ゴッホ : 画家の母1888
ゴッホは35歳、弟セオへの書簡に「母さんの肖像画は、自分の為に描いているのだ」とある。ゴッホにとって母は大きな存在である、母は、その威厳、優しさなど、何よりも人としての大きさを感じさせる
17 Modigliani : Portrait of Raymond 1915
モディリアーニの描く顔には、他の誰にもない美しさがある、顔の細さや傾きなどが特徴だが、突き詰めて言えば、やや斜めに引かれた直線とそれら相互の角度による幾何学的形象の美しさなのではないか、この絵などそれを感じる
18 Picasso : Portrait of Maya 1938
マヤはピカソの娘で、このとき3歳。この絵は粗い布地にわずかの絵具を塗っただけ、ピカソという画家の卓越さは、その造形力にあるのだろう、ベラスケス、デューラー、フランス・ハルス、ルーベンス、セザンヌなどの系譜に属する画家だ