[演劇] マキノノゾミ『北斎マンガ』わらび座 亀有リリオホール 12.20
(写真↑は、前列左から、北斎の娘・お栄、北斎、妻・おこと、滝沢馬琴、全員が個性的で、素晴らしい喜劇キャラ)
アリストテレスは演劇を「ある人間の生きざまを必然性のある可能態としてミメーシス(=再現)すること」と定義した(『詩学』)。つまり、実在した個人の評伝劇が演劇の本来の姿なのだ。わらび座の上演では、これまで観た「平賀源内」「井口阿くり(日本に女子体育を導入した教師)」の二つの評伝劇がよかったが、今回の「葛飾北斎」はそれを上まわる傑作だと思う。作・演出がマキノノゾミだからか。何よりも、北斎がこれほど魅力的な人だったことがよく分る。よくケンカをしたらしいが、自由を最優先した生き方が素晴らしい。他人のアドバイスをまったく聞かず、自分の描きたいものだけを、自分の描き方で描く。当時は「芸術家」という概念はなく、彼は職人の「絵師」だったが、実態はまさしく芸術家、しかも商売上手で、売れる作品を描く人。作風はリアリズムではなく、まさに現代アート。印刷して冊子で売られた『北斎漫画』は、人間が実に生き生きと描かれている↓。
とにかく、北斎の親密圏は個性的な人ばかりなのがいい。ケンカしながらの馬琴との深い友情も実にいいし、妻・おこと、娘・お栄も個性的で、おかしく面白い人。娘・お栄は出戻り後、北斎を補佐し絵師を継いだが、酒も煙草も大いにやる、オヤジに劣らぬ豪快な女。妻・おことは、北斎その人を非常に深く理解しているのが凄い。これだけ個性的な人物が集まって、これほどよい家族がありえたのだ。キルケゴールは、「恋愛は、その個人だけにある美質に互いに惹かれたときに本物になる」と考えたが、北斎夫婦・親娘はそういう関係にみえる。ミュージカルで軽快なロック調の音楽にしたのがいい。北斎は現代アートなのだから、ロックはよく似合う↓。