[オペラ] モーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》 二期会 新国 9.05
(オペラ《コジ》のレコード録音から始まるが、演技だったはずが次第に本当の恋になってしまう[写真下])
演出・衣装はロラン・ぺリー、フランスのシャンゼリゼ劇場と提携。素晴らしい舞台で、フィオルディリージ(種谷典子)が特によかった。《コジ》は見るたびに、そのつど感動する箇所が違う。今回はとりわけ、舞曲風の軽やかな旋律の美しさに感嘆した。広い舞台を歌手が縦横に動き、駆け回ったりするのが、音楽の浮き立つような美しさとよくマッチする。私は女中のデスピーナが大好きなのだが、彼女は駆け回るのがよく似合う。デスピーナは、《フィガロ》のスザンナと同じくイタリア喜劇の「コロンビーナ」キャラ、主人の二人のお嬢様を「男なんて一杯いるわよ、浮気して楽しみましょ!」と煽りまくるのがいい。《コジ》の本当のヒロインはデスピーナではないかとさえ思う。(写真↓は哲学者アルフォンソと悪だくみを打ち合わせるデスピーナ(九嶋香奈枝)、下は、怪しげな「メスメルの石」で魔術をみせるデスピーナ[こちらはシャンゼリゼ劇場])
しかし、今回あらためて心に沁みたのは、第2幕第7景、フィオルディリージのアリアのこのうえない美しさである。遊びのつもりだった恋が本当の恋になってしまったことから生じる深い悔恨の感情が切々と歌われる。音楽の軽さが、彼女ら/彼らの深い感情と絶妙に混じりながらバランスしており、そこが《コジ》の《コジ》たるゆえんだろう。「女はみんなこんなものさ(浮気大好き動物だよん)!」というタイトルも、別にミソジニーではないだろう。最後の幕切れ、「スワッピング」を4人が肯定的に受け容れたかどうかは、原作通り、両義的に表現されている。でもデスピーナは「私ほどのヤリ手が騙されるなんて、恥ずかしいわ、でも負けるもんか、今度は騙し返してやるわよ」と明るく歌うのだから、これはどこまでも喜ばしい喜劇であって、6人全員が、そしてモーツァルト自身が、「スワッピング」=浮気を祝福しているのだろう。
シャンゼリゼ劇場ですが、50秒のよい動画↓