パーセル『アーサー王』

charis2010-02-28

[オペラ] パーセルアーサー王』 神奈川県立音楽堂

(写真右はポスター、下は今回の上演の元となったフランス版、モンペリエ国立劇場での舞台(2009年3月)。右側のスカート姿の奇妙な人物が指揮者のニケ。You Tubeの動画も最後に貼っておきます。)

昨年、『ダイドーとエネアス』の実演を観て、パーセルの音楽の美しさに魅せられたので、横浜の桜木町まで出かけた。ちょうど津波到着予測時間ごろだったので、電車が遅れ、開演も30分繰り下げられた。エルヴェ・ニケ指揮、コンセール・スピリチュエルの演奏。フランスでの上演をやや短くしたものだが、とても素晴らしいものだった。この作品は、アーサー王物語をイギリスの詩人ジョン・ドライデンがオペラ化したもので、パーセルの楽譜は残っているが、台本は残っていない。フリム演出のザルツブルク音楽祭の舞台(2004)をDVDで観たとき、音楽のない科白だけの演劇の部分がとても長く、物語とあまり関係ない仕方で音楽と歌と踊りが付くので、ずいぶん長時間の奇妙なオペラ構成だと思った。今回のニケ版で分ったのだが、上演は、ドライデンの(台本とは違う)原稿とパーセルの音楽を組み合わせて再現しているので、そうなったのだ。だから、誰が構成するかによって、『アーサー王』の舞台はかなり違ったものになる。このニケ版は、科白だけの部分を大幅にカットして、パーセルの音楽のみで再構成している(実質、1時間40分)。音楽の付く場面は、アーサー王の物語である演劇部分とはほとんど関係のない儀式や踊りの場面なので、こうした方がよりパーセルを楽しめる。


今回の日本上演は、伊藤隆浩による構成・演出で、フランス版をさらに切り詰めたコンサート形式に近いものだった(オケが舞台上に上がる)。しかし舞踏的部分は、オケの両横でバレーダンサーが踊り、そして舞台正面上部の大きな立体スクリーンに、ダンサーを影絵で映したり、映像を投影したり、とてもよくできた舞台で大いに楽しめた。


パーセルの音楽は、あれほど優美でありながら、古典的なリズム感というか形式美を備えている。その旋律には、リヒャルト・シュトラウスのような「甘さ」はまったくないのだが、とてもシンプルで「澄み切った」感じがあり、下から上へと湧き上がるような喜びと幸福感に満ちている。とりわけ重唱や合唱が美しいのは、モーツァルトを思わせる。


以下、You Tubeで見つけた動画です。
第4幕の「パッサカーリア」、この作品でもっとも美しい場面だと思いました。特に後半部、この世にかくも美しい音楽があったのかと、うっとりしてしまった。J.E.ガーディナー指揮の映画版(England, my England)より。
http://www.youtube.com/watch?v=EE-5rFLapjM&feature=related

以下は、ニケ指揮、コンセール・スピリチュエルによる、2009年3月のモンペリエ国立歌劇場の舞台。どれも1、2分の短いものですが、アリア的な部分というより、舞踏的で、合唱の美しい場面を選んでみました。フランスのトップ・コメディアンが演出したそうで、とてもユーモラスで楽しい。日本でもDVDが発売されています。
第1幕、Come if you dare
http://www.youtube.com/watch?v=I-WTCwYYXoc&feature=related
第5幕、The banquette
http://www.youtube.com/watch?v=55ddoYtAR1o&feature=related
第4幕、The Forest
http://www.youtube.com/watch?v=u20t1rM6gQk&feature=related