河野裕子歌集『あなた』

charis2016-08-18

[読書] 河野裕子歌集『あなた』 岩波書店、8月4日刊


6年前の8月、ガンで亡くなった河野裕子の歌集、『あなた』が出たので読みました。夫や子供が選歌している、つまり、彼女の相聞の当事者たちが選んだ歌なのです。新たに書かれた家族による想い出がとてもいい。彼女が角川短歌賞を取ったとき、「自分も応募すればよかった、あの時期ならけっこういい勝負だったかもしれない」と、夫の永田和宏が書いています。いえいえ、絶対に河野裕子だったでしょう(笑)。本歌集には、忘れられない、いい歌が多いので、私も好きな歌を少し挙げてみます。


・ 逆立ちしておまへがおれを眺めてた たつた一度きりのあの夏のこと


・ われよりも優しき少女に逢ひ給へと狂ほしく身を闇に折りたり


・ 窓のやうな眸(ひとみ)を持つ少女だった のぞけばしんと海が展(ひら)けて


・ たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか


・ 海くらき髪なげかけてかき抱く汝(な)が胸くらき音叉のごとし


・ 君を打ち子を打ち灼けるごとき掌(て)よざんざんばらりと髪とき眠る


・ 手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が
   (亡くなる前日の、最後の歌)