METライブ フィリップ・グラス 《アクナーテン》

[オペラ] フィリップ・グラス《アクナーテン》 METライブ Movixさいたま  2月27日

(写真↓は舞台、非常に美しい、上はジャグリングjugglingの小さな玉が素晴らしい、手前で祈るのはアメンホテプ3世(アクナーテンの父))

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アメリカの作曲家フィリップ・グラス1937~が1983年に創ったオペラ。METライブで珍しい上演を観ることができた。「アクナーテンAkhnaten」とはBC14世紀の古代エジプト王アメンホテプ4世のこと(実在)。多神教だったエジプトに一神教を導入したが、神官などの反対により一代限りで終わった。フロイトは、モーセエジプト人であり、アメンホテプ4世の高官だったが、王の死とともにユダヤ人たちを引き連れて国を脱出したのが「出エジプト記」だという仮説を提出した。グラスのオペラ化でも、おそらくフロイト説は念頭にあったと思われるが(インタヴューで演出家がフロイトの名を言った)、この作品はモーセまで話を広げるのではなく、太陽神を崇拝する一神教を導入したアクナーテンが神官や民衆の反発で殺されるという話に絞っている。写真下はアクナーテン。

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非常に見応えのあるオペラで、若き王アクナーテンのvulnerabilityつまり儚さ、脆弱さ、弱さを強調するために、カウンターテナーを起用している。体も小さく、まるで少年のような王だ。オケにヴァイオリンがなくヴィオラ以下の弦楽器構成で低音、しかも繰返し反復的にリズムを取るので、オケは全体が通奏低音のような感じで、カウンターテナーが対照的に浮かび上がって美しい。歌も、英語で歌う部分は少なく、古代エジプト語やヘブライ語の歌なのに字幕なし、言葉の意味は分からないので、人間の声が楽器音のように機能する。意味の分からないお経を聞いているようなものか。演劇的な部分は非常に少なく、人の動きはスローモーションのように緩慢で、まるで様式化されたのようだ。しかしジャグリング(玉やバトンを高速で回す大道芸)も加わるので、そちらは高速で、その身体表現はまるでコンテンポラリーダンスのよう。写真↓。

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全体として、戦慄的で怖い感じに溢れているが、それは演劇的な個人の行為がほとんどなく、三幕とも内容は宗教的儀式だからだろう。ニーチェは「人間の最古の祝祭の歓喜には、性欲、陶酔、残酷という三要素がある」(『力への意志』§801)と述べたが、まさにそれを見るような舞台だった。ジャグリングを取りいれたのは演出のマクダーモットなのか? いや、古代エジプトの壁画に女官たちのジャグリングが描かれているそうだから、グラスの原作に指示があるのか。とにかく身体表現を含めた舞台が、怖いくらい美しい。(写真↓の一番下は、王妃ネフェルティティ(左)と王の母ティ(右))

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50秒ですが映像が↓。

https://www.shochiku.co.jp/met/program/2086/

ジャグリングの部分を紹介した3分の映像↓、最後に古代エジプトの女官の壁画も。

https://twitter.com/InsideEdition/status/1197998188046610432