シャウビューネ公演『ノラ』

[演劇]  シャウビューネ公演:イプセン『ノラ ―人形の家より』  世田谷PT


友人二人と観劇。ベルリンの人気劇団。若手の演出家オスターマイアーの演出。1879年の原作『人形の家』を現代に移したリメイク版。科白と筋はほとんど原作に忠実だが、最後にノラが家出するのではなく、夫ヘルマーをピストルで射殺するという衝撃的な結末。イプセンはチェホフに比べると単調なところがあり、日本での舞台公演も"いかにも新劇"といった感じで、現代の我々が見て満足する舞台を作るのは難しい。


さすがにベルリンの前衛劇団だけに、さまざまな工夫がこらされている。まずノラとヘルマーの夫婦が、年若い友達夫婦だ。友人のランク医師や、夫婦の敵クログスターもみな青年で、全体が若者の物語なのだ。ノラも、原作の「ひたすら可愛い幼な妻」ではなく、いかにも現代風の、セクシーな美女。白いスーツ姿が凛々しい。舞台は、現代の機能美の先端を行くような高級マンションの居間。そして、回り舞台、音楽、踊りなど、全体がスタイリッシュで美しい。まぎれもなく、これは現代演劇だ。


物語はスピード感に溢れて、一気に終末へと駆け抜ける(途中休憩なし)。舞台にこれと言った不満はないが、ノラ夫婦が若い友達夫婦なので、妻が夫の「人形」になる家父長制の問題性が背後に退いた気がする。原作のように、ヘルマーがずっと年上の銀行頭取であれば、ノラが借金をあれほど隠さなければならない「夫の怖さ」にリアリティがあるが、友達夫婦だと、そのあたりの切迫感に欠ける。


終演後のトークは面白かった。なぜノラはヘルマーを射殺するのかという質問に対して、演出助手の回答は、現代ドイツでは若い夫婦の離婚はごく当たり前なので(「2/3が離婚」と言ったが、本当かいな?)、「妻が家を出て行く」だけでは衝撃度がないとのこと。ふーむ、なるほど。質問したある女性は、「私は専業主婦なので、ノラの気持ちはとても良く分ります」と言った。うーむ、これは少し意外。ノラのように夫にひたすら依存する「可愛い妻」は、現代日本でそんなにリアルなのか。日本では、夫婦は"持ちつ持たれつ"で、"弱い夫"もごく普通なので、ヘルマーのような全権を持つ強い夫の「支配」という感じが、今ひとつピンとこないのだが・・。その後、神保町のブラッセルズに移動。三人でベルギービールを飲む。いつまでも外が明るい。(舞台写真は↓)
http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/schaubuehne/nora.html