[今日の絵] 3月前半

[今日の絵] 3月前半

1 Boldini : The Laundry 1874

アイロンや乾燥まで含めて、「洗濯」は女性の労働の中で大きな比重を占めているので、19世紀後半以降、繰り返し描かれた、この絵は、主に上流階級の人々を描いたボルディーニには珍しい絵、しかしいかいにも彼らしく、描かれた人物には見事な動性がある

 

2 Gauguin : Washerwomen at Roubine du Roi 1888

タヒチへ行く前の40歳のゴーギャンは、この年、ゴッホと共同生活をする、そして「新しいプリミティビヴィスム」の方向へ踏み出した年、つまり彼の画風が確立した年でもある、この絵は人体の描き方など「新しいプリミティヴィスム」がよく見て取れる

 

3 Leon L'hermitte : マルヌ川の土手の洗濯する女たち1898

レオン・レルミット1844~1925はフランスの写実主義の画家、農民の生活をたくさん描いた、この絵も、洗濯する女たちは、疲れて、その顔はやつれている、画家は労働を美化していない

 

4 César Pattein : Doing the wash 1905

セザール・パタン1850-1931はフランスの画家、農村の女性や子供をたくさん描いた、どれも楽しげな絵が多い、この絵はおそらく、声を掛け合いながら洗濯物を叩いているのではないか、日本の田植え歌のように、共同作業には一緒にリズムを取る場合がある

 

5 Serebriakova : 布地の漂白 1911

女性たちは厚い布地の漂白作業をしている、最初はグレーの布地を、酒を含む水に浸し、次は数日間草の上に干す、布地が完全に乾いてはまずいので、朝と夕にそれを行う、この絵は布地を広げている過程、セレブリャコワはウクライナ出身の女性画家

 

6 Degas : In a Laundry 1884

ドガは、洗濯やアイロン掛けの女性をたくさん描いているが、楽しげに働いている姿は一つもない、実際に苦しく辛い労働なのだろう、踊り子の絵もそうだが、ドガの描く人物の生は、ルノワールとはまったく違って、むしろ人間の生きづらさ、生きにくさを描いているのか

 

7 Pierre Jean Edmond Castan : タイトル不明

ピエール・ジャン・エドモンド・カスタン1817–1892はフランスの画家、家族とりわけ母と子供たちをたくさん描いた、どの絵にも、優しく温かい感情が溢れており、画家自身の家族に対する愛情を感じさせる、この絵のモデルも画家の妻か娘かもしれない、ポーズを取らせている

 

8 Makovsky : Presser 1900

昨日のカスタンの絵では、アイロンがけする女性が、優美に微笑んでいたが、おそらく現実はこちらが本当だろう、アイロンがけは高熱を扱うから、女性の表情は注意深くて、かなりキツくならざるをえないはずだ

 

9 Petrus Christus:カルトゥジオ修道会の修道士1446

「顔」はやはり人物画の中心的要素だ、ペトルス・クリストゥス1410~75は初期フランドルのオランダの画家、これは彼の代表作の一つ、顔の向きや視線など非常に深みのある造形だ、手前に小さなハエが描かれ、腐敗、罪、死などの宗教的象徴といわれる

 

10 Perugino : The Almighty with Prophets and Sybils (detail) 1500

大きな絵の一部、描かれているシビルとは古代ギリシア預言者の女性、顔にはルネサンス絵画のそれに特有の上品で優美な雰囲気がある、ペルジーノ1448~1523はイタリア・ルネサンス盛期の画家、人気があり注文が殺到したという

 

11 da Vinci : La Scapigliata 1508

「ほつれ髪の女」と呼ばれている有名な未完の絵、下向きの優しい視線と微笑みが、この絵の人気の源泉なのか、全体としてダ・ヴィンチの「聖母」の絵と非常によく似ている、おそらく、誰かモデルの顔というよりは、彼にとって理想的に美しい女性の顔なのだろう

 

12 Aegidius SadelerⅡ: Head of Christ 1598

エギディウス・サドラー2世1570~1629はオランダの画家、若い時はデューラーの絵の忠実なコピーばかり描いた、それほどデューラーの絵が模範とされていた頃か、この絵はキリストで、視線は鋭いが女性のように美しい、右上にデューラーの署名、しかし元の絵は残存しない

 

13 Velazquez : A Young Man 1623

ベラスケス1599~1660の23歳くらいの作品、「若い男」と題されているが自画像とも言われている、視線の力など、この顔そのものに、まるでそこに生きているかのような強い存在感があり、名画だと思う

 

14 Ingres : アングル夫人の肖像1859

描いたアングル1780~1867は78歳、夫人は二番目の妻デルフィーヌ・ラメル50歳、彼の描く女性は大体はふくよかで、あごに手を当てたポーズも多い、身体の諸部分のバランスの見事さではマティスの「建築的均衡」に劣らない、装飾品など含めて、まるで貴族の女性に見える

 

15 Makovsky : Portrait of Artist K.Bornikov 1868

マコフスキー1839~1915が若い時、まだ写実の時期の絵、後期のように色彩も凝っていない、「芸術家K・ボルニコフ」とは誰だか分からなかった、有名人ではないのだろう、だがこの絵は、眼光など顔の風貌を鋭く捉えており、名画ではないだろうか

 

16 Modigliani : Head of a Young Girl 1916

モディリアーニには珍しく、眼の瞳まではっきりと描かれている、ということは、この絵にはその必要があったのだろう、顔や上半身の形、全体のバランス、背景を含めた色彩など、際立って美しく、彼の絵の特徴がすべて揃っている