[映画] ピケティ『21世紀の資本』

[映画] ピケティ『21世紀の資本』    Movixさいたま  6月1日

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ピケティ『21世紀の資本』(2013)のエッセンスを映画化したもので、非常によく出来ていて、分りやすい。ピケティ自身も、最初から最後まで映像に合わせて講義する。103分の内容は、この250年くらいの西洋経済史だが、富の格差や恐慌が革命や20世紀の二度の世界大戦を引き起こしたことが強調されている。ピケティ自身が「経済学は、その時代時代の権力構造や思想を反映する社会科学である」と言っているように、経済は戦争や革命と不可分に結びついている。貴族の富の独占に反発したフランス革命、しかしそれで富の格差はなくならなかったこと、19世紀後半から20世紀の前半にかけて、国民国家と資本主義の発展が強く結びついていたために、二度の世界大戦になったこと。

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ピケティ『21世紀の資本』の内容は非常にシンプルで、r=資本収益率(資本がどれだけの収益を産むか)は一貫して年間4~5%であるのに対して、g=国民の所得成長率は1~2%でしかないことを、統計数値によって実証したことである。つまり、資本がどんどん豊かになっていくのに比べて、国民一人一人が豊かになる率[速度]は低く、資本主義である限りは、r>gという不等式によって経済格差はますます開く。たとえば、21世紀の現在、イギリスの人口の1%が、70%の土地を所有しているという。1930年~80年は例外的に格差が小さい時代だったが、それは社会主義革命政府が成立したために、資本主義の各国は革命を恐れ、国家が率先して所得再分配を行い、労働者階級を懐柔したからである。ケインズ経済学はそのための処方箋であり、ニューディール政策福祉国家などはその実行である。皮肉な事に、ソ連東欧の社会主義が崩壊した以後は、資本主義は富の格差拡大を恐れることなく暴走することが可能になった。しかも、グローバル資本主義国民国家からも自由になったので、グローバル大企業はタックスヘイブンを利用して国家に税金をまったく払わない。だから、資本収益によって生じた富は、国民に再分配されない。このまま資本主義が暴走すれば、社会そのものがますます敵対的になり、自己破壊されるだろう(たとえば独裁国家や内戦や世界戦争など)、という見通しで映画は終る。

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この映画を見て、現在始まっているアメリカと中国の「新冷戦」の理由の一端が分かった。「情報スパイ疑惑」によるフェアウェイいじめなどは、目くらましで、本当の理由は、グローバル資本主義による資本収益をどちらの国がより多く取るかの争いなのだ。また、コロナ禍によるグローバル化の停滞?(予想)はこの映画にはないが、どうなるのだろうかと考えさせられた。全体として、r>g不等式、すなわち資本主義である限り資本収益率が所得成長率を上回るという「病根」の根は深く、果たしてピケティの提案するようなグローバル企業への課税によって問題が解決するのかどうか、とも考えさせられた。

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短い動画がありました。

https://www.smt-cinema.com/site/saitama/movie/detail/?cinemaid=T0024954&mo=31596&type=0